グローバル企業による課税逃れを防ぐため、 G20や経済協力開発機構(OECD)が新たな多国間協定を始動させたことが、 2018年7月に報道されました。
2国間の租税条約によらなくても 対策の統一ルールが適用できるという内容です。
多国間協定の交渉には、約100か国・地域が参加し、 将来の参加国・地域は今後大幅に増える見通しです。
このことは税収拡大や税収基盤強化を考える各国において 移転価格を含めた税務執行の強化につながるものと予想されます。
グローバルに展開する日本企業にとっても当然に影響が及ぶものと考えられ、 改めて日本企業の税務ガバナンスのあり方が問われることになるでしょう。
これまでの海外税務における日本企業の課題として、 海外子会社等の海外拠点では、 日本の親会社の税務部門ほどは税務ガバナンスが効いていない点が あげられます。
日本の親会社が、必要な税務業務や管理を現地子会社に任せきりにし、 その税務の実態を真に把握していないケースが 少なからず見受けられます。
もともと海外子会社の管理が事業部主体で行われてきたことや、 日本の親会社の税務部門が国内の税務対応で手いっぱいであったことなど、 原因は様々です。
しかし、 事業の拡大に伴い海外税務リスクが高まっているにもかかわらず、 現地子会社における税務ガバナンスが効いていないため、 現地で多額の追徴課税が発生したり、 必ずしも実態に即さない現地の税務執行に甘んじたりするケースが 散見されます。
日本企業が継続して海外事業を展開していくためには、 海外における税務リスクをどう管理していくかが重要な課題です。
また、昨今、企業には 投資家や社会など様々なステークホルダーへの説明責任を果たしつつ、 税務リスクを適切に管理していくことも求められるようになってきています。
そのため、 日本の親会社が中心となって企業グループ全体の税務行動について、 仕組として体系的に指揮・統制し、合理的な意思決定を行う 税務ガバナンスの整備が必要となってきます。
税務ガバナンスにおいては、 税務行動規範や税務戦略を定めてグループ各社に これらを順守させることから始まります。
これから取り組まれる企業においては、今ある仕組みや組織の活用など、 できるところから着手し、その運用を通じて改善を重ねながら 税務ガバナンスを整備・強化していくことが望ましいと考えます。
例えば、 海外子会社の移転価格税制への対応を適切なものにするには、 日本の親会社が現地子会社の実態を適切に把握し、 マスターファイルの作成や取引価格にかかる移転価格ポリシーの構築などに、 日本の親会社が関わっていくべきです。
こうした現地子会社への指示・指導を行うことで、 企業グループ全体の税務行動の整合性を保つことができるのです。
これからの日本企業は、効果的な税務ガバナンスを整備し、 企業グループにおける税務コンプライアンスや税務リスクマネジメントを 適切に実践していかなければなりません。