海外での取引の増加により、多くの中堅・中小企業が海外に進出し その経済活動をますますグローバルに展開しています。
国税局においても、 企業等の事業、投資活動のグローバル化が進展する中で、 海外取引を行っている海外取引法人等に対して、 より深度のある調査に取り組んでいます。
その中で中堅・中小企業の海外展開による 国際取引で影響を与えると思われる事例が報告されました。
(産経新聞2017年8月31日から要約)
浜松市浜北区の車両部品メーカーA社が名古屋国税局の税務調査を受け、 2016年4月期までの7年間で約1億5,000万円の所得隠しを指摘されました。
A社はインドネシアの子会社への出向者の給与について、 本来子会社が負担すべき給与を肩代わりしており、 一方で、この子会社から適正額より過大な配当金を得ていたようです。
A社が給与の肩代わりで自社の利益を圧縮する一方で、 非課税扱いの配当金で自社に利益を戻す形を取っていたとして、 国税局は、意図的な所得隠しと判断したようです。
A社は、一時的に負担した出向者の給与の返還分を配当に含めていた時期 があるが、仮装や隠蔽(いんぺい)の意図はなかったと説明しています。
日本の親会社が、自社の従業員を海外子会社へ出向させて 技術支援や営業活動など、 現地で子会社のために業務を行うことはよくあることです。
その出向者の給与については、 本人は海外子会社の業務を行っていることがほとんどですので、 通常は出向者の給与は全額海外子会社が負担すべきです。
その中で、 親会社から海外との給与格差を補填するために出向者に支払われる 給与負担割合(較差補填金)をどのようにするかが 税務上の大きな問題となります。
日本の税務調査官は当然ながら、 「現地法人のために働いた費用ですので、全て現地法人に負担させて下さい」 と主張し、 親会社が負担している場合は、同額を海外子会社への寄附金だと指摘します。
ところで、較差補填金の税務上の取り扱いは、 給与条件の較差を補てんするため出向者に対して支給した給与は、 出向者と親会社との雇用契約を前提として (適正な金額について)親会社の損金(費用)に算入されます。
また、次のような場合も、給与較差補てん金(損金)として取り扱われます。
(1) 出向先の法人が経営不振等で 出向者に賞与を支給することができないため、出向元の法人がその出向者に賞与を支給する場合
(2) 出向先の法人が海外にあるため、出向元の法人が留守宅手当を支給する場合
従って、海外子会社が出向者給与を全額負担しなくとも、 上記に該当すれば、税務上は海外子会社への寄附金ではなく 親会社の損金(費用)として認められます。
そのためには、親会社の費用の負担割合に合理性がある旨の ポリシー(負担割合の取り決め)を作成し、 出向契約書に添付してエビデンスとすることが重要です。
このほか、親会社が自社の従業員を海外子会社へ短期出張させる場合も 日本親会社の業務なのか、海外子会社の業務なのか、 旅費交通費や現地での宿泊代をどちらが負担するのかなども問題になります。
親子ローンがある場合には、貸付金利も税務上問題になります。 製造業はロイヤリティの料率についても税務調査で論点になります。
親会社が海外子会社に対して「回収すべき費用を回収していない」、 「子会社が負担すべき費用を負担している(肩代わり)」場合には、 親会社からの海外子会社への寄附金となり 全額損金不算入(税務上の経費にならない)となります。
海外子会社への寄附金とならないようにするためには、 海外子会社とロイヤリティを含めた取引についてポリシーを作成し、 税務上適正な負担割合を明確にして、 回収漏れや負担漏れによる課税リスクを回避することが重要です。
また、ポリシーを一度作成すればよいということではなく、 作成したポリシー通りに行われていない場合や、 新たな取引が発生したのにポリシーを作成していない場合は、 海外子会社への寄附金となる可能性が高くなります。
現地の給与水準の確認や対象取引の状況を確認するなど 毎年定期的にポリシーを見直すことが 海外子会社への課税リスク対策となります。