近年、経済社会がますます国際化している中で、日本企業の健全な海外展開促進や租税回避の効果的な対応のため、またBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの進展などにより、国際的な租税回避行為に対する規制が強化されています。
特にタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)については、2018年から2019年にかけて大幅に改正がありました。改正後の事務処理上の取り扱いが複雑なことから税理士でも判断に迷う場面があるほどです。
そんな中、先日タックスヘイブン対策税制の申告漏れが報道されました。
―――――
再生医療を手掛ける「表参道ヘレネクリニック」の松岡院長が、東京国税局の税務調査を受け、2017年までの5年間で約1憶円の申告漏れを指摘された。
松岡院長はクリニックを経営する一方、医療機器のレンタル会社をシンガポールに設立し、給与や株式の配当を受け取っていたが、国税局は「会社に実体がない」としてタックスヘイブン対策税制を適用し、シンガポール会社の所得を松岡院長の個人所得に当たると判断した。
また、バージン諸島にペーパーカンパニーを設立して、この会社に広告宣伝費を支出していたが、国税局は給与にあたると判断した模様だ。
(日経新聞2019年8月24日から要約)
―――――
このスキームについて、国際税務の専門家に税務判断を仰いでいたか不明ですが、申告漏れとして指摘を受けた事実は重大です。
最近でも、京セラが2019年8月に軽課税国にある子会社の税務処理を巡り、法人税など約14億円の申告漏れを指摘されています。
サンリオも2017年12月に香港子会社のキャラクタービジネスについて、タックスヘイブン対策税制に該当するとして11億円の申告漏れを指摘されており、この案件は2019年10月現在、係争中です。
タックスヘイブン対策税制とは、日本の法人と個人が、実質的に活動しない外国子会社等を軽課税国に設立・利用することにより日本の法人税負担を軽減・回避することに対処する税制です。
具体的には、外国子会社等がペーパーカンパニー等又は経済活動基準を満たさない場合や実質的活動のない事業から得られる所得がある場合、外国子会社の所得を日本の法人の所得に合算するという制度です。
実務上クリアしないといけない基準は下記の4つです。
1.事業基準
2.実体基準
3.管理支配基準
4.非関連者基準または所在地国基準
要約すると、現地に事業実態があっても、「管理は日本親会社がしているか?」を確認して、法人税申告書の別表17(国外関連者に関する明細書)を作成かつ添付して上記4つを判定したのちタックスヘイブン対策税制の適用除外を判定することになります。
日本親会社がシンガポールや香港などの軽課税国に進出して事業を行う場合は多く見受けられます。
進出当初は、優秀な人材を現地調達することが難しいため、日本親会社の役員が兼務して日本と現地を往復し会社を運営する場合がほとんどです。
海外子会社の管理実態は海外担当者に確認することが望ましいですが実務上は不在の場合が多く、管理事実を把握することは困難であることが想定されます。
したがって、海外子会社の管理は現地でしているのか日本親会社がしているのか、管理支配基準が税務調査でも論点になります。
少なくとも、タックスヘイブン対策税制にとって重要な別表17の確認は顧問税理士として必須です。
近年の税務調査では、管理支配基準の判定よりも別表17(国外関連者に関する明細書)の添付もれが多く見受けられます。
皆様の会社または個人事業主等で海外子会社を所有しており、このようなタックスヘイブン対策税制の該当の有無、適用除外の判定の有無を今一度点検いただき、疑わしい場合は、タックスヘイブンに詳しい国際税務の専門家に相談されることをお勧めします。
タックスヘイブン対策税制については、改正内容も複雑ですので、国税庁のQAを参考にすることを推奨します。
特に、2019年の税制改正により、2020年3月期からタックスヘイブンの別表が変わり、海外子会社の申告書、決算書が添付必須となり、記載内容も大幅に変更になっていますので注意が必要です。
アタックス税理士法人では、タックスヘイブン税制はもちろんのこと、海外子会社との取引を中心とした国際税務に関する実務セミナーを毎月開催しています。
この機会にぜひ、国際税務の実務対策を万全にして下さい。
セミナーの詳細はこちらからご覧ください。
また、国際税務に関する税務相談や海外子会社との値決めルールや海外子会社とのタックスプランニング、クロスボーダー取引に関するリスクについて現状把握と解決支援を行っております。
こちらからお気軽にご相談ください。