租税条約の役割と重要性 | アタックス税理士法人 国際部

租税条約の役割と重要性

2020年1月15日

 企業や個人の活動がグローバル化し、当たり前のように海外と取引が行われる昨今、国境を越えた取引に対する国際税務の役割の重要性がますます高まっていますが、今回は改めて租税条約の役割に焦点を当ててみたいと思います。

 各国にはそれぞれ課税権があり、また、それぞれの国は自国の税法を独自に定めていますので、国境を越えた取引に対して、その取引から生じた所得がどちらの国で課税されるのか、あるいは両国で課税され二重課税となってしまうのか等、国際間の税務問題が生じます。

 そのような二国間以上の税務問題を扱う分野が「国際税務」であり、自国の税法や相手国の税法(海外税務)を勘案して対処することになりますが、その中でも最終的に租税条約の役割が最も重要になってきます。

 租税条約とは、一言でいえば、国と国との間で結ばれる税金の取り決めです。「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府と〇〇国政府との間の条約」というような形で締結され、日本においては、令和元年12月1日時点で、130ヶ国・地域と75の租税条約を結んでいます。

 この租税条約の目的は、二国間での健全な投資・経済交流の促進です。その目的を達成するために、国家間の課税権の配分に関する規定や国際的な二重課税の排除規定などが中心に置かれ、近年では、脱税や租税回避の防止のため、税務当局間での協力規定も置かれます。

 対象となる租税は、所得税と法人税(条約によっては地方税も)ですが、米国との間では、相続税に関する租税条約も締結されています。

 租税条約を適用する際に、日本では、租税条約を国内税法に優先させることが憲法で規定されており、仮に、国内税法の規定と比べて租税条約によって取り扱いが軽減、もしくは免税となっている場合は租税条約が優先します。

 一方で、国内税法に課税の規定がない場合には、租税条約に規定があっても課税関係は発生しません。
 つまり、租税条約は相手国での税負担を軽くすることはあっても、重くすることはない、という取り扱いになります。

 では、租税条約の具体的な内容について触れていきます。

 租税条約には、国際標準となる「OECDモデル租税条約」があり、OECD加盟国を中心に、租税条約を締結する際のモデルとなっていますが、OECD加盟国である日本も概ねこれに沿った規定を採用しています。

【OECDモデル租税条約の主な内容】

課税関係の安定(法的安定性の確保)・二重課税の除去

  • 源泉地国(所得が生ずる国)が課税できる所得の範囲の確定
    ・事業利得に対しては、源泉地国に所在する支店等(恒久的施設)の活動により得た利得のみに課税
    ・投資所得(配当、利子、使用料)に対しては、源泉地国での税率の上限(免税を含む)を設定
  • 居住地国における二重課税の除去方法
    ・国外所得免除方式又は外国税額控除方式
  • 税務当局間の相互協議(仲裁を含む)による条約に適合しない課税の解消  

脱税及び租税回避等への対応

  • 税務当局間の納税者情報(銀行口座情報を含む)の交換
  • 滞納租税に関する徴収の相互支援

 二重課税を調整する規定には、所得が発生する国(源泉地国)の課税権の範囲を規定するものや、発生した二重課税を排除するものなどがあります。 前者の例として、配当、利子、使用料といった投資所得の税率の上限を定めた規定(投資所得の制限税率)や、短期滞在者免税の規定(※)があげられます。 また、後者の例として、外国税額控除に関する規定があげられます。

 多国籍企業が、実態がなく租税条約の恩典だけを享受するための株式所有形態をとる場合があります。 そのような脱税や租税回避の防止のために、条約では一定の条件を満たした場合だけ租税条約の恩典を与える「特典制限条項(LOB)」を設けています。日本の場合は、日米条約、日英条約、日仏条約、日独条約など、9つの国との租税条約で、特典制限条項を定めています。

 また、租税条約では、適正な課税を行うために、国同士の税務当局間の協力を促進するため、相互協議、情報交換、徴収共助などの規定が設けられています。

 相互協議は、外国で条約の規定に適合しない課税を受けた場合に、納税者が自国の権限ある当局(日本では財務大臣及びその代理人)に申立てを行い、当局が外国の権限ある当局との間で協議を行う制度です。移転価格についての相互協議などが具体的な例です。

 情報交換は、適切な課税を行うために、条約締結国間の税務当局同士で租税情報の交換を行うという規定です。 近年では、タックス・ヘイブンに金融資産を移動することで課税を回避する事例が目立ってきました。その防止を目的として、日本は、タックス・ヘイブンとの間で情報交換に特化した租税情報交換協定を締結しています。

 このほか、租税条約は伝統的に二か国間で締結されるのが通常ですが、同様の条約を多数の国と締結する必要性が生じてきています。 そこで、近年では、多数国で合意できる条約をOECDのような国際機関で立案作成し、それを各国政府が国会で批准し、一定期間後にその国で適用するという「多数国間租税条約」の策定が潮流となっています。

 企業活動等のグローバル化が二国間のみならず多数国間に広がった結果が、租税条約の重要性をますます高めているといえます。

※従業員が外国に出張して勤務を行った場合には、役務の提供地である外国においても個人所得税の課税対象となります。租税条約では、短期出張者に対する免除規定を設け、一定の条件を満たせば、役務提供地での出張者の給与に対する課税が免除されます。

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