陥りがちなトラブルとは?
立派に経営してきた社長も、事業承継の対策を打てていないケースが少なくありません。
もちろん、事業承継対策の重要性は十分に認識しているはずですが、社業優先でなかなか重い腰があがらないのが実情ではないでしょうか。
しかし、事業承継対策に取り組んでいなかったばかりに、その後さまざまなトラブルが発生するケースがあることも事実です。
ここでは、事業承継対策に取り組まなかった結果、どんな問題が起こるのかを確認しておきたいと思います。
長男を後継社長にしたものの、なかなか経営権の委譲が進まないA社
創業者の会長(78歳)は8年前に長男(49歳)に社長のイスを譲っているが、会長は今でも自社株の過半数を持っており、経営に関する重要問題も最後は会長が決めている。
社長は自社株の持株比率が10%にも満たない程度で、会長が経営権を手放さないことを不満に思っているが面と向かっては言えていない。
しかし、とうとう思い切って、社長は会長に、経営の一線から引くことと、自社株の承継を早急に進めることを求めた。
ところが、逆に会長の怒りを買い、経営方針の対立が深刻な状況となり、業績まで傾きはじめた。
注意すべきポイント
このケースのように、経営権や自社株の承継が中途半端で、会長との間がギクシャクしてトラブルに発展することがよくあります。
後継者から経営権や自社株の承継を求めることは困難ですし、先代からしても大変不愉快なものです。
先代からみれば後継者が頼りなく感じるということは当然あるものですが、このような事態になる前に、事業承継は会長の方から積極的に進めるべきです。
長男、続いて次男と後継社長にしたものの、経営能力の乏しさから会社の存続そのものが危ういB社
社長(現在78歳)は、10年前に長男(現在52歳)、7年前に次男(現在50歳)に社長をやらせてみたが、どちらも経営能力の不足と人望の無さが原因で失敗した。
やむなく、一度は退いた社長のイスに4年前復帰して社業の建て直しをはかってきたが、その後の親子の対立から、昔、自分が贈与した株式の買い取りを迫られるなど心身ともに疲労困憊である。
会長は健康に大きな問題は無いが、高齢を迎え、社業を先頭に立って引っ張る力はもうなくなっている。
これといった後継者候補もなく、会社売却も検討し始めたが、ここ数年で会社の力も衰えたため、なかなか買い手も現れず、会社の存続すら危うくなっている。
注意すべきポイント
これはまさに親族内事業承継の失敗例です。
早い段階で長男、次男の経営能力や人望の無さを客観的に判断できていれば、ここまでの事態は回避できたと思われます。
自分の子供に後継者たる資質がなければ他の方法を検討すべきです。
親族外の幹部への承継、M&A(売却)をご参照。
数年前に亡くなった創業者が、生前、後継者に自社株を承継させる手続きをとらなかったことから、後継者と相続人の間でトラブルに発展したC社
3年前に亡くなった創業者は一代で製造、小売など数社の事業を成功させた。
創業社長の長男が社長のイスを引継いだが、生前において後継者への自社株の承継をほとんど進めてこなかった。
相続が発生し、相続人の間で遺産の分割協議が行われたが、社長の弟が強行に法定相続分どおりの自社株の相続を求めたため、社長もやむを得ずこれに応じた。
創業社長の相続後3年がたったが、社長の弟がお金に困ったようで、最近、社長に対して自分が持っている自社株の買取りを求めてきた。
最初は受け流していたが、ここにきてどこか見知らぬ人物に売却することをほのめかしている。
この会社の株式には譲渡制限条項がついているものの、結局はグループ企業のいずれかで買い取るより仕方がない自体に。
最近ではグループ全体の業績も芳しくなく、会社にとっても大きな出費となりそうだ。
注意すべきポイント
創業社長は会社の発展に多大な功績を残したわけですが、事業の承継という点からはあまり手を打てていなかったようです。
社長の最後の大きな仕事として、親族の間で余計な揉め事が起こらないようにする必要があります。
とくに自社株は通常の財産とは違った意味を持っていますから、誰にどう引き継がせるのかという点を含め、早めに承継の対策を考えるべきです。