事業承継計画は、会社のビジョンや将来の経営目標と切り離しては考えられません。
後継者への経営権の承継は、将来の会社の売上(利益)規模や事業内容、組織体制等と併せて考えていく必要があります。
1.経営理念を引継ぐ
経営理念は、自社の事業をどのように方向づけ、何を実現していくのか、さらには事業を通じて社会にどのように貢献するのか、ということをさまざまな利害関係者に明示するもので、会社の経営の基本軸となるものです。
したがって、経営理念は、会社が存在する限りずっと変わらないものであり、後継者はその理念を引き継ぎ経営を行う必要があります。
ただし、後継者が社長から事業を承継するような歴史的転換期においては、基本的な考え方は維持しつつ見直すこともあります。
経営理念の意義
経営理念をつくることには二つの意味があります。
一つは、事業経営の基本的な考え方を、すべての関係者に示すことです。
社会に対して「我が社の存在意義」を表明し、お客様に対して「自社のお客様に対する姿勢」を伝え、従業員に対して「従業員の行動規範」を伝えます。
二つめは、会社の、あるいは従業員の行動の「価値判断の基準」を持つことができるということです。
「従業員としてどう行動すべきか」の判断基準を得られるだけでなく、経営者の心や哲学に触れることで大きなモチベーションにもつながります。
経営理念に関するポイント
経営理念に関して特に重要なポイントを確認しておきましょう。
経営理念を作成するときのポイント
- 経営理念は過去から脈々と伝わる創業者の哲学です。
経営理念を見直す場合にもその精神を守っていくことは大変重要です。 - 経営理念は分かりやすいものにすることです。
複雑な経営理念よりも、簡潔明瞭で素直に受け入れられるものの方が浸透します。 - 事業関係者の意見を十分聴くことです。
最終的には、社長と後継者で決めるとしても従業員などの貴重な意見を吸いあげてみることが大切です。
経営理念を浸透させるためのポイント
- 従業員にも共有します。
経営理念の共有は、社長や後継者だけでなく従業員も含めて行なわれるとき、大きな力を発揮します。 - 現場の行動基準とリンクさせることです。
現場の従業員の行動基準や評価基準にリンクさせておかないと、大きな成果が期待できません。 - 経営幹部が経営理念に合った行動を実践することです。
後継者や経営幹部が実践していないものは誰も実践しません。
2.中期的な経営ビジョンを立てる
経営ビジョンは、会社の将来のあるべき姿を実現するための具体的な基本計画です。
事業承継計画をつくるなかで、後継者が、社長や経営幹部と一緒になって中期的な経営ビジョンを立てることがスムーズな事業承継に大いに役立ちます。
ここでは、経営ビジョンづくりに欠かせない三つの要素を説明します。
事業ドメインを明確にする
事業ドメイン(事業領域)は、自社が手がける事業の範囲のことを言います。
事業ドメインをどう決定するかが、その企業の中長期的な成長を左右します。
後継者は、社長や経営幹部とともに、今一度、自社の事業ドメインを見つめ直すことが必要です。
事業の環境分析を行い、自社の強み・弱みを十分検証したうえで、中期的成長を成し遂げられる事業ドメインを再定義します。
数値目標を立てる
事業ドメインを明確にしたら、必ず具体的な数値目標(経営目標)を立てる必要があります。
事業承継を進める場合にも、後継者が、経営幹部と十分議論し、実現可能な3年後、5年後の数値目標を掲げなければなりません。
数値目標は、通常、自社の業種特有の項目を盛り込みますが、例えば代表的なものとして次のような目標が考えられます。
- 3年間の売上高成長率は5%以上を達成する
- 3年後には総資本営業利益率7%以上にする
- 1人当たり付加価値を1.2倍にする
なお、この数値目標は、自社の実力より少し高めに設定すると良いと思います。
後継者が経営幹部と一緒に考えることにより、実現に向けてのモチベーションが、大いに高まることが期待されます。
経営基本方針を明確にする
数値目標(経営目標)を達成するには、そのための具体的な経営基本方針を決めなければなりません。
経営基本方針とは、数値目標を達成するための具体的なしくみと行動基準を示すことです。
なお、この経営基本方針は、実際に人事評価や成果配分にリンクさせる必要があります。
経営ビジョンまとめ
経営ビジョンの3要素をまとめておきます。
事業ドメイン | 自社の事業領域はどこか明確にする (自社は何屋さんかを決める) |
---|---|
数値目標 | 売上、利益率などの中期的な目標を数字で示す |
経営基本方針 | 数値目標を達成するための具体的なしくみと行動基準を示す |
会社にとって完成度の高い経営ビジョンとなっているか、次のポイントで確認しましょう。
- 明瞭で理解しやすい経営ビジョンになっているか
- 自社にマッチした経営ビジョンになっているか
- 少し背伸びをした経営ビジョンになっているか
- お客様、従業員から支持される経営ビジョンになっているか
- 従業員が実現できると思える経営ビジョンになっているか
- 中長期の視点からの経営ビジョンになっているか
3.事業承継の具体的な対策と実施時期を決める
先代と後継者の経営理念の共有(または見直し)ができ、中長期的な経営ビジョンを描けたら、会社の株式(自社株)の承継など、さまざまな対策の実施時期を決めていきます。
具体的には、次の項目について検討していくことになりますが、事例をみるのが一番わかりやすいと思いますので、この項目については事業承継計画の具体例(計画づくりのステップ)を参考にしてください。
- 後継者育成について
- 事業関係者の理解について
- 自社株や財産の承継について
- 会社を磨く方策について
4.事業承継計画を「見える化」する
事業承継計画は、きちんとスケジュールに落とし込むことが非常に重要です。
スケジュールに落とすことで、いまどこまで進んでいるか、次に取り組むべき事項は何かなどが、先代と後継者のどちらから見ても明確になります。
互いに常にやるべきことが確認できますし、計画そのものを軌道修正する場合にも役立ちます。
また、常に目に触れる状態をつくることで、社長と後継者の事業承継に対する意識レベルを保つこともできます。