株主の権利を理解する
事業承継で社長や後継者を悩ませる大きな課題の一つが「自社株の承継」問題です。
中小企業の多くは同族会社、すなわち「社長=株主」です。
社長のイスを後継者に引継ぐ際には、しかるべき時期に自社株も委譲していく必要があります。
また、自社株は財産的側面と経営的側面を併せ持っています。
財産的な側面から言えば、会社の業績が良いほど自社株の株価は高くなるものの、「第三者に売却して換金できるものではない」という厄介な問題を抱えています。
経営的な側面から言えば、会社の最終的な所有者は株主に他ならないわけですから、自社株は「経営には一定割合以上持っていなければならないもの」と言えます。
全株主が後継者と同じ思いなら何も心配はありませんが、必ずしもそうではありません。
そこで、まず、株主に与えられている主な権利について確認していきましょう。
経営に参画することを目的とする権利
株主の権利は、「経営に参画することを目的とする権利」と「経済的な利益を目的とする権利」に分けて考えることができます。
前者の「経営に参画することを目的とする権利」から見ていきます。
1.議決権
議決権は、株主総会で会社が提案するさまざまな議案について「決議に参画することができる権利」で、株主の権利のなかで最も代表的なものです。
会社法では、経営上の重要事項は株主総会の決議で決定されることになっています。
後継社長は株主から会社の経営を委任されていますが、会社にとって重要なテーマについては株主の賛成を得なければなりません。
株主総会の決議は、基本的に「普通決議」「特別決議」「特殊決議」の3つに分かれます。
それぞれの決議の内容は以下のとおりです。
普通決議
普通決議は、株主総会に出席した株主の過半数の賛成で決議することです。
取締役の選任・解任や剰余金の配当などがこの普通決議によります。
特別決議
特別決議は、株主総会に出席した株主の3分の2以上の賛成で決議することです。
定款の変更や合併、会社分割などがこの特別決議によります。
特殊決議
特殊決議は、最も厳しい決議条件です。
原則として株主総会に過半数の株主が出席し、かつ、その出席した株主の3分の2以上の賛成がなければ成立しない決議です。
株主総会の重要事項と決議要件をまとめると次のようになります。
種類 | 重要事項 | 決議要件 |
---|---|---|
普通決議 | ・取締役、監査役、会計参与の選任 ・取締役、監査役、会計参与の解任 ・取締役、監査役、会計参与の報酬等の決定 ・剰余金の配当 ・自己株式の取得(特定株主からの取得を除く) ・計算書類の承認など | 出席株主の議決権の過半数の賛成 |
特別決議 | ・定款の変更 ・自己株式の特定株主からの取得 ・譲渡制限株式を取得した相続人等への売渡し請求 ・資本金の額の減少 ・組織変更、合併、会社分割、株式交換・移転 ・事業譲渡、解散など | 出席株主の議決権の3分の2以上の賛成 |
特殊決議 | ・定款により非公開会社へ移行する場合など | 原則、 議決権のある株主の半数以上の出席、 かつその議決権の3分の2以上の賛成 |
2.帳簿閲覧請求権
帳簿閲覧請求権は、会社の会計帳簿などを閲覧することを請求できる権利です。
会社の発行済株式総数の3%以上を所有している株主であれば行使することができます。
基本的には、よほどの理由がないかぎり、この帳簿閲覧請求権を拒否することはできません。
3.株主提案権
株主提案権は、株主が会社に対して株主総会における議案を事前に提案することができる権利です。
議決権の1%以上または300個(通常は1株に1個の議決権)をもつ株主に与えられています。
最近、大会社を中心に、株主が株主提案権を行使するケースが多く見受けられるようになりました。
4.株主代表訴訟
株主代表訴訟は、会社に損害を与えた取締役に対して、株主がその賠償を求めることができる権利です。
株主代表訴訟は、1株しか持っていない株主でも提起することができます。
5.まとめ
経営に参画することを目的とする権利(非公開会社の場合)をまとめると以下のようになります。
項目 | 内容 |
---|---|
議決権 | 株主総会で議案に対して決議を参画する権利 |
株主総会召集権 | 総株主の議決権の3%以上の株主が持つ株主総会の召集を訴求できる権利 |
帳簿閲覧請求権 | 総株主の議決権の3%以上または発行済み株式総数の3%以上が持つ帳簿の閲覧を請求できる権利 |
株主代表訴訟 | 株主が持つ会社に損害を与えた取締役に賠償を求める訴訟を起こすことができる権利 |
株主提案権 | 総株主の議決権の1%以上または300個以上の株主が持つ株主総会において議案を提出することができる権利 |
解散請求権 | 総株主の議決権の10%以上または発行済み株主総数の10%以上の株主が持つ会社の解散を請求することができる権利 |
経済的な利益を目的とする権利
次に、後者の「経済的な利益を目的とする権利」を見ていきましょう。
1.利益配当請求権
利益配当請求権は、経済的な利益を目的とする権利の代表的なもので、株主が会社の利益分配である配当金を受取ることができる権利です。
赤字の場合や政策的に内部留保の必要がある場合には、必ずしも株主に配当を出さなくても問題ありませんが、昨今の株主還元重視の考え方から、中堅中小企業の社長もこうしたことをある程度は意識する流れになっています。
2.株式買取り請求権
株式買取り請求権は、会社が合併や事業譲渡を行なう場合、これに反対する株主が会社に対して自分の持っている株式の買取りを請求することができる権利です。
株主総会前に反対の意思表示をし、かつ株主総会で反対することで権利の行使が可能です。
もっとも、中堅中小企業でよく見受けられるのは、法的な株式買取り請求権ということよりも経営上のトラブル等から会社や経営者が自社株を買取らざるを得なくなるというケースです。
項目 | 内容 |
---|---|
利益配当請求権 | 会社の利益の分配である配当を受け取ることができるという権利。ただし、利益が無い場合や利益があっても内部保留にする場合など経営判断により無配とすることもある。 |
残余財産分配請求権 | 会社が解散する場合に、債務を返済してもなお財産が残るとき、その持株数に応じて残った財産の分配を受ける権利。もちろん、債務の方が大きいときは株主分配はない。 |
株式買取り請求権 | 株式の譲渡制限規定を定款に定める場合や合併の場合、事業全部の譲渡、重要な一部の譲渡等の場合で、これらの決議に反対する株主は、その決議が行われる株主総会の開催前に書面で反対の意思を通知し、かつ株主総会でも反対すれば、公正な価格で株式を買取るように請求できる権利。 |