ここでは、自社株問題を解決するための種類株式等の活用事例をご紹介します。
議決権制限株式の活用法
相続により、事業と無関係な弟にも自社株を持たせるとしても、長男(後継者)の経営の支障にならないようにしたい。
↓
議決権制限株式を導入する。
詳細を説明していきます。
相続時、会社の株式は相続人で遺産分割の協議を行なって、その所有者を決めます。
仮に相続人が妻と子供2人の場合、自社株を法定相続割合で分割すると、妻が50%、長男と次男がそれぞれ25%の割合で保有することになります。
将来にわたって兄弟仲が良ければ心配することではありませんが、何が起こるか分かりません。
世の中には親族内の揉め事が会社の経営を揺るがすようなケースもあります。
このようなリスクに備えるのに有効な種類株式が「議決権制限株式」です。
現社長の相続に先立って議決権制限株式を発行したうえで、普通株式を後継者である長男に、議決権制限株式を次男に譲ることを遺言で決めておくわけです。
次男には配当優先権を付けてあげれば納得してもらえるのではないかと思います。
こうしておけば、現社長に万が一のことが起こっても、会社の株式の議決権は100%、後継者に集中させることができますので、安心して事業経営に打ち込むことができます。
拒否権付株式(黄金株)の活用法
後継者に自社株を譲りたいが、本当に事業を任せることができるか判断する時間がほしい。
↓
当面の間は拒否権付株式を導入する。
後継者の経験不足・能力不足で会社が駄目になったという例は決して少なくありません。
とくに、後継者の年齢が若い場合には、自社株の委譲に現社長が慎重になるのも当然のことと言えます。
こうしたときに役立つ種類株式が「拒否権付株式」です。
拒否権付株式は「黄金株」とも言います。
株主総会で決議された議案でも、当初決めておいた一定の重要議案については、黄金株を持っている株主の賛成がなければ決議できない(種類株式を保有する株主による種類株主総会の決議を必要とする)というものです。
後継者に自社株を譲る前に、株主総会の特別決議で拒否権付株式の発行と種類株主総会にかけなければならない議案や条件を決めておき、自社株を譲った後も全面的に経営を任せることができる時期が来るまで、現社長が「拒否権付株式」を持っておきます。
そうすれば、万が一、後継社長に行き過ぎた行為があった場合でも未然に防ぐことができますので、まだ心配だという社長は、念のための手立てとして利用することをお考えください。
相続人等に対する売渡し請求条項の活用
行き過ぎた相続税対策で分散してしまった株式を買い戻したい。
↓
今のうちに「相続人等に対する売渡し請求条項」を導入する。
株式分散は、多くの会社に見られる問題です。
分散した株式をある程度買い戻して、後継者に経営権を集中させていく方が無難と言えるでしょう。
現社長の目の黒いうちは誰も何も言わないでしょうが、万が一のことがあれば状況が一変する可能性があるからです。
この場合、会社の定款に「相続人等に対する売渡し請求」の条項を盛り込んでおく方法が役立ちます。
この条項を入れておくことで、株主に相続が起こるたびに、株式を相続した人から、会社が優先的に自社株を買取ることができます。
かなり時間はかかりますが、確実に自社株を買い戻すことができるわけです。
注意点は、会社が売渡し請求をする対象は、現社長も含めてすべての株主だという点です。
したがって、この条項を定款に盛り込む前に、後継者グループの議決権割合を高めておくことが大変重要なポイントです(下図参照)。
※下図では、万が一その他株主からの「相続人等に対する売渡し請求」があり、現社長の30%の株式を会社が買い取ることになったとしても、その結果「後継社長40:その他株主30」の比率で株式を持つことになりますので、後継社長は57.1%(40÷70)の議決権を確保できていることになります。