納税猶予制度の概要
納税猶予制度には、贈与税の納税猶予制度と相続税の納税猶予制度の2種類があります。
贈与税の納税猶予制度
後継者が、先代経営者から自社株の贈与を受け、要件を満たす場合には、贈与前から後継者が保有していた議決権株式を含め、発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分について、贈与税の全額の納税を猶予するものです。
そして、猶予された税額は、先代経営者が死亡した場合など一定事由に該当したとき免除されることになります。
(注)現在は特例措置が設けられていますので、下記「重要:納税猶予制度の特例措置」を併せてご確認ください。(法律が改正されたわけではありません)
相続税の納税猶予制度
後継者が、相続により自社株を取得し、要件を満たす場合には、後継者が相続前から保有していた議決権株式を含め、発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分について、課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予するものです。
そして、猶予された税額は、後継者が死亡した場合など一定事由に該当したとき免除されることになります。
いずれの制度も、免除の時までにこの制度の適用を受けた自社株を譲渡するなど一定事由に該当した場合には、猶予税額の全部または一部を利子税と併せて納付しなければなりません。
(注)現在は特例措置が設けられていますので、下記「重要:納税猶予制度の特例措置」を併せてご確認ください。(法律が改正されたわけではありません)
【重要】納税猶予制度の特例措置
平成30年度の税制改正で、平成30年4月から5年以内に特例承継計画を提出※し、平成30年1月から10年以内に実際に承継を行う場合において、現行の事業承継税制を拡充した特例措置が設けられました。
※令和4年度税制改正により、法人版事業承継税制に係る特例承継計画の提出期限が1年延長され、令和6年(2024年)3月31日となりました。
この特例措置では、納税猶予制度を適用する場合の要件や猶予される税額が大幅に拡充されています。
主なものは以下のとおりです。
- 先代経営者以外からの相続・贈与も納税猶予制度の対象になりました。(現行制度も改正されます)
- 後継者が最大3名(議決権10%以上の代表者に限ります)まで認めらました。
- 経営承継期間内における常時使用従業員数の5年間平均値が、相続時・贈与時の常時使用従業員数の80%を下回っても納税猶予の継続が可能になりました。(都道府県へ満たせない理由を記載した書類の提出が必要)
- 発行済議決権株式総数の3分の2までとされていましたが、贈与や相続により取得した全株式が納税猶予の対象とされました。
- 相続税の納税猶予制度では対象株式にかかる相続税の80%相当が猶予となっていましたが、全額が猶予されることになりました。
- 特例承継期間(5年)経過後に、納税猶予の取消事由(譲渡・合併・解散等)が発生した際に、経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合には、納付税額を再計算(減免)できることになりました。
制度活用におけるポイント
納税猶予制度の活用において大きなポイントとなるのが、先代経営者の要件、後継者の要件、認定対象会社の要件などをクリアできるかという点です。
納税猶予制度は上手に活用できれば世代を超えた長期的な効果が見込めますが、要件がクリアできなかった場合には、猶予税額の一括納付をしなければなりません。
とくに贈与税の納税猶予制度の場合には、猶予税額そのものが多額になるケースもありますので、慎重な判断が必要です。
納税猶予制度の特例措置によって、「対象株式数や猶予割合の拡大」「対象後継者の拡大」「雇用要件の弾力化」「新たな減免制度の創設」など、現行制度が抜本的に拡充されたことで活用のチャンスは大きく広がりました。
しかしながら、猶予取消事由に該当する組織再編や資本金等の減少への対応、複数の後継者に株式を承継する場合の株式分散リスク、後継者以外の相続人への配慮など、実際に適用するにあたっては慎重な検討が要ることに変わりありません。