M&Aも選択肢のひとつ
オーナー社長の多くは、できることなら息子や親族を後継者にしたいと考えるでしょう。
しかし、親族に適当な後継者がいない場合や、後継者はいたとしても5年先、10年先を考えるとこれからの経営環境を乗り越えることができるかどうか不安な場合があります。
こうした場合において、次の選択肢となりうるのが「M&A」です。
社長としては大きな決断を要することですが、事業承継を成功させるための有効な手段として、中堅中小企業でもかなり積極的に取り組むようになってきています。
M&Aのメリット
M&Aは、親族や社内外の候補者に事業を引継がせることが難しいときに、会社を売却して、まったくの第三者に経営を委ねるという方法です。
M&Aには次の2つのメリットがあります。
1.事業の存続
M&Aは会社を手放すことになるものの、その一方で社長が築きあげた事業を残すことができるというメリットがあります。
事業を残すということは、
- その事業に関係する多くの社員の雇用を維持することができる
- その事業に関係する多くの取引先の仕事を確保することができる
ということです。
会社を廃業した場合には、全社員が職を失うことになりますし、取引先にも大きな迷惑をかけることになるかも知れません。
M&Aは、会社売却という手法をとることで、事業の存続をはかり、経営者として社員や取引先に対する責任を全うすることができるという大きなメリットがあるわけです。
2.経営者のキャッシュアウト
M&Aのもうーつの大きなメリットは、経営者が会社売却によりキャッシュを手に入れることができるという点です。
経営者はこれまで自分の蓄えは二の次で、そのほとんどを事業経営につぎ込んでこられています。
気がついたら、事業を引継ぐべき適当な後継者が見当たらず、その中で事業を継続することに大きな不安を抱くようになっている場合もあるでしょう。
M&Aを活用することで、今まで心血注いで築きあげた事業をキャッシュに変えることができます。
事業を手放すという寂しさはあるかもしれませんが、社長の老後資金もこれで十分確保できるはずです。
M&Aの手法
会社の全事業を売却する場合と一部の事業を売却する場合によって異なりますが、M&Aは一般的には次のような手法によって行われます。
株式売買
株式売買は、買い手の会社が売り手の会社の株式を取得し、その対価として、買い手の会社は売り手の会社の株主に現金を支払います。
合併
合併は、買い手の会社が売り手の会社を吸収し、その対価として、買い手の会社は売り手の会社の株主に買い手の会社の株式(吸収合併の場合は現金も可)を交付します。
株式交換
株式交換は、買い手の会社が売り手の会社のすべての株式を取得し、その対価として、売り手の会社の株主に、買い手の会社の株式もしくは現金を交付します。
会社分割
会社分割は、買い手の会社が売り手の会社の事業を引継ぎ、その対価として、売り手の会社に対して、買い手の会社の株式(吸収分割の場合は現金も可)を交付します。
事業譲渡
事業譲渡は、買い手の会社が売り手の会社の事業を譲り受け、その対価として、買い手の会社は売り手の会社に現金を支払う方法です。
M&Aの流れを理解する
事業承継の一環としてM&Aを考えたとしても、多くの経営者はいったいどのような手順で進めれば良いか分からないと思います。
M&Aの流れについて、注意すべき6つのポイントを解説していきます。
1.売却の事前準備
M&Aを進めるにあたっては十分な事前準備が必要です。
最初にやるべきことは、自社の現状を正確に把握することです。
具体的には、自社の外部環境や内部環境を十分に検討したうえで、少しでも会社の力をつけておくことが必要です。
次に、売却条件の検討と優先順位付けを行います。
具体的には、全部の事業を売却するのか、それとも一部にするのか、売却価格をいくらに設定するか、どんな方法で売却するかということをーつーつ決めていかなければなりません。
そして、この売却条件にしっかり優先順位を決めておくことです。
M&Aはこちらの希望どおり進むわけではありません。
当然、買い手の側にも譲れない条件や都合があります。
売却交渉がうまく進まないときに、こちらが譲れるものと譲れないものを明確にしておくわけです。
最後に、売却の仲介機関を決めておきます(アタックスもそうした機関の一つです)。
仲介機関に売却に関する条件をよく説明して、こちらの気持ちや考えを十分に理解してもらっておくことも大切なことです。
2.売却先候補企業の選定
次に売却先をどこにするかです。
売却先の候補としては、同業の会社のほか、業界大手の会社や取引先などになると思いますが、まずは間口を広げて候補先を挙げていき、その中から実際にアプローチする会社を絞り込んでいきます。
社長としては、大事な社員とともに事業を引継いでもらうわけですから、売却価格が希望どおりであることだけでなく、それ以外の観点からも十分検討したうえで売却先候補企業を決定していくことになります。
具体的には次のようなチェックポイントを検討することになるでしょう。
- 経営資源(人財、技術、顧客基盤、ブランドなど)に魅力を感じてもらえる候補先か?
- 事業成長が期待できる候補先か?
- 顧客や取引先などに納得してもらえる候補先か?
- 役員や社員に納得してもらえる候補先か?
3.条件交渉
M&A案件で最も骨の折れることが条件交渉です。
買い手にもいろいろ都合がありますから、なかなかこちらの思いどおりには事は進みません。
条件交渉の中でも、最もタフな交渉が予想されるのが売却価格についてです。
売却価格にはこれといって決まった評価方法があるわけではありませんが、通常は、外部の専門家に依頼して、条件交渉に臨むにあたっての売却価格のたたき台を用意しておきます。
また、売却価格以外に売却事業や売却資産の範囲、売却の手法などもお互い納得できるまで条件を詰めていくことになります。
4.基本合意書の締結
重要な売却条件が合意に至れば、両者の間で基本合意書を締結することになります。
基本合意書は、法的な拘束力をもつ売買契約書にしないケースが多いようです。
それまでの交渉内容を文書化しておくという性格を持っています。
5.買収監査(デユー・ディリジェンス)
基本合意書が締結されれば、いよいよ買い手による買収監査(デュー・ディリジェンス)が行われます。
買収監査は、通常、買い手が選任した弁護士、公認会計士などの専門家によって、売り手の会社や事業の実態を詳細に調査していくことになります。
買収監査の結果によっては、売り手に対して売却価格の引き下げ、売買条件の変更を求めることになりますし、重大な問題が発見された場合には売買自体を中止するということもあり得ます。
6.クロージング
買収監査が終わり、両者間で最終的な交渉合意に至れば、売買契約書を締結するとともに、売買代金の決済が行われます。
売り手が注意すべきは「表明保証」(買い手に対して提供した資料や情報の正確性を保証すること)です。
この表明保証に違反した場合は、売り手は買い手に対して損害賠償責任を負うことになります。
M&A成功のポイント
M&Aを成功させるためのポイントは大きく二つに分かれます。
「M&Aに取り組む前にやっておきたいポイント」と「M&Aそのものを成功させるためのポイント」です。
具体的には、次のような点に着目して良い会社に仕上げておくことが必要です。
M&Aに取り組む前にやっておきたいポイント
業績向上・経費削減
買い手はその事業を買収することでさらに事業の成長を図ろうとしています。
買い手にとって魅力ある事業と判断してもらえるよう、少しでも業績の向上や無駄な経費の削減につとめておきます。
貸借対照表のスリム化
資産のなかに、事業に必要のない資産が多く存在する場合には処分などを行い、貸借対照表のスリム化をしておくことも必要です。
強みをつくる
なかなか短期間で対応できる問題ではありませんが、常日頃から自社のセールスポイントとなる「強み」をつくっておくことが重要です。
経営幹部への業務の権限委譲
社長のワンマン会社では、買い手は買収後に事業経営に支障が出ないか心配になります。
計画的に役員・経営幹部に業務の権限委譲を進めておくほうが望ましいと思います。
すなわち、社長が交替しても事業が運営できる体制にしておくことです。
公私のけじめ
オーナーと会社の線引きをしっかり行うことが必要です。
事業上の必要性が乏しい資産の賃貸借や社長しか利用しないゴルフ会員権の保有などについて公私のけじめをつけておいたほうがいいでしょう。
社内規程等の整備
社内マニュアルや社内規程で未整備のものがあれば整備しておいてください。
会社として当然あるべきと思われるものは揃えておくに越したことはありません。
分散した株主の整理
株主がかなりの数にのぼる場合や会社にとって好ましくない株主がいるときは、できる限り事前に整理しておくほうがいいでしょう。
買い手としても株主関係が複雑であれば及び腰になる可能性があります。
M&Aそのものを成功させる5つのポイント
1.情報漏れを厳に防ぐ
M&Aの準備段階では、極めて限定した範囲の人に情報をとどめることです。
M&Aで最も怖いのは、途中の情報漏れにより、案件自体が消滅してしまうことです。
2.専門の仲介機関をつかう
M&Aを上手に進めるためには、専門的な知識・経験を持っている仲介機関(アタックスもそうした機関の一つです)に相談することです。
M&Aは繊細なことですから、その取り扱いになれた専門知識を有する機関に任せるほうがよいでしょう。
3.希望を早い段階で仲介機関に伝える
M&Aを進めるにあたっては、売却の条件、売却金額の希望等を早い段階で仲介機関に伝えることです。
売り手としての意思を早めに伝える方が買い手も検討しやすくなります。
4.隠し事はしない
買い手側のデュー・ディリジェンスを受けるときは、買い手に対して自社の都合の悪いことでも隠し事をするべきではありません。
後からそれが発覚した場合、せっかくの案件が頓挫することもありえます。
5.交渉終了後も気を緩めない
M&Aの交渉が終了した後も会社の環境整備に気を配る必要があります。
仮に、交渉時には想定していない事態がクロージングまでの間に出てきた場合には、白紙撤回という事態も考えられます。