なぜ、iDecoに加入すると税金面でお得、と言われているのでしょうか?
今日は、その理由を税金計算のしくみから解説したいと思います。
なお、最初にお伝えしておきたいことですが、当然ながら、iDecoでも株式等での運用における損失が発生する可能性があり、また、60歳になるまで解約不能というデメリットもありますので、その点はご注意ください。
iDecoとは?
さて、iDeco(イデコ・個人型確定拠出年金)とは、個人で月々掛金(5,000円以上)を拠出し、定期預金や保険、投資信託等で運用し、老後のお金を積み立てるお得な制度です。
iDecoに加入した場合の税制上のメリットは、
- 掛金の全額が所得控除の対象であること
- 株式等の売却益や配当について税金がかからないこと
が挙げられます。
後者は「税金がかからない」とズバリそのままですので、
この記事では、前者の「掛金の全額が所得控除の対象であること」がどんな節税効果を生むのか解説していきます。
そもそも所得税の計算方法は?
所得税は、1/1~12/31の間の「収入金額」から一定の控除を行い、その控除後の「所得金額」からさらに「所得控除額」を差し引いた額に対して累進税率を乗じて算定します。
用語が分かりにくいですので、簡単に説明しますと、
- 収入金額:サラリーマンでいう額面の金額
- 一定の控除:サラリーマンでいう給与所得控除
- 所得控除額:基礎控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除ほか
といったものになります。
なお、実務的には通常、本来の累進税率(超過累進税とよばれるもの)では計算せず、国税庁が発表する「速算表」にある「税率」を掛けた金額から「控除額」というものを差し引く方法で計算します。
この速算表は、本来の超過累進税で計算した場合と計算結果が同じになるようにできており、超過累進税は計算が面倒なため、この速算表を利用する方法がよく使われます。
速算表を使うとして、計算イメージは次のようになります。
※「給与所得控除」「基礎控除」の表、「速算表(税率・控除額)」を最後に掲載しましたので参考にしてください。
iDecoの掛金は所得税の計算上、どこに反映される?
さて、ここから、iDecoに加入した場合の税制上のメリットについて説明していきます。
まず、iDecoの掛金は、計算上、全額が「所得控除額」に反映されます。
つまり、所得金額から掛金全額が控除される訳ですから、おおむね掛金として拠出した金額に税率を掛けた金額分だけ節税効果があると言えます。
掛金が所得控除になる効果<シミュレーション>
具体例を踏まえて見ていきましょう。
ここでは、
・同じ掛金額で年収が異なった場合、どちらの方が得なのか?
・同じ年収で月々の掛金額が違った場合、どちらの方が得なのか?
を説明していきます。
同じ掛金、異なる年収の場合
毎月の掛金を1万円拠出していたとし、年収2,000万円と年収400万円のサラリーマンで比べてみましょう。
※給与所得控除、基礎控除、税率、控除額は、最後に掲載してある表をご参照ください。
※便宜上、社会保険や医療費、保険料の支払いはなく、独身であることをベースにしています。
{(20,000,000-1,950,000)-(10,000×12ヶ月+基礎控除480,000)}×33%
-1,536,000=4,222,500
iDecoがなければ…
{(20,000,000-1,950,000)-(基礎控除480,000)}×33%
-1,536,000=4,262,100
上記のように年収2,000万円の人は、120,000円の33%相当額である39,600円の税金が抑えられることとなります。
{(4,000,000-1,240,000)-(10,000×12ヶ月+基礎控除480,000)}×10%
-97,500=118,500
iDecoがなければ…
{(4,000,000-1,240,000)-(基礎控除480,000)}×10%
-97,500=130,500
上記のように年収400万円の人は、120,000円の10%相当額である12,000円の税金が抑えられることとなります。
結果として、年収2,000万円の人の方が、年収400万円の人より、39,600円-12,000円=27,600円分得をしたことになります。
つまり、年収が多ければ多いほど、同じ掛金であっても、節税できる税金額が大きくなるということです
同じ年収、異なる掛金の場合
それでは、同じ年収で月々の掛金額が違うとどうなるでしょうか?
前項では、年収400万円・掛金1万円の計算をしましたので、
同じ年収400万円の人の場合で、掛金2万円で計算してみましょう。
{(4,000,000-1,240,000)-(20,000×12ヶ月+基礎控除480,000)}×10%
-97,500=106,500
iDecoがなければ…
{(4,000,000-1,240,000)-(基礎控除480,000)}×10%
-97,500=130,500
上記のように掛金2万円の人は、240,000円の10%相当額である24,000円の税金が抑えられることとなります。
掛金2万円の人は、掛金1万円の人よりも 12,000円分、節税額が大きくなっています。
つまり、年収が同じであれば、掛金が多ければ多いほど、節税できる税金額が大きくなるということです。
「それなら掛金をたくさん拠出すれば、支払う税金がなくなるのでは?」と言いたいところですが、残念ながら掛金は上限が定められています。
上限金額は個人の属性(国民年金保険の加入状況や企業型確定拠出年金の有無など)によって最低1万2千円から最高6万8千円と異なりますので、以下を参照ください。
住民税も同じようにお得!
サラリーマンであれば、毎年5月か6月に各市町村から住民税の決定通知書が届くことが多いと思います。住民税は、前年の所得税の計算を元に決定されています。
実は、その住民税についても、iDecoに対する掛金の拠出に対する税率分だけお得になっています。
計算方法について、詳細な説明は省きますが、所得税の計算方法とおおむね同じで、税率が収入の多寡にかかわらず約10%(多くの自治体は、都道府県民税4%と市町村税6%の合計10%)となり、税率を掛けたあとの控除額は住民税にはありません。
ですので、毎月の掛金が1万円の場合、その年額12万円の10%、1万2千円分の住民税が節税できているということになります。
いかがでしたでしょうか?
各証券会社等のシミュレーションで、節税できる金額はすぐに計算できますが、なぜ税金を抑えることができるのか?と不思議に思っていらっしゃる方が多いので、今回解説させていただきました。
iDecoは、あくまで将来のための投資ですので、税金面のメリットだけを考慮せずに、余裕資金で投資するようにしましょう。
参考資料
給与所得控除(令和2年分以後)
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 |
---|---|
180万円以下 | 収入金額×40%-100,000円 550,000円に満たない場合には、550,000円 |
180万円超、360万円以下 | 収入金額×30%+80,000円 |
360万円超、660万円以下 | 収入金額×20%+440,000円 |
660万円超、850万円以下 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
850万円超 | 1,950,000円(上限) |
基礎控除(令和2年分以後)
個人の合計所得金額 | 控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超、330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超、695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超、900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超、1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超、4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
執筆:アタックス税理士法人 コンサルタント 南口 和磨
監修:アタックス税理士法人 社員 税理士・中小企業診断士 鵜飼 潤