税金

退職金にかかる税金の計算方法

投稿日:2020年9月4日 更新日:

会社を退職する際に、会社から過去の労働に対する対価等として受け取る退職金。
この退職金も税金の対象となります。

今回は、退職金に対する一般的な税金の計算方法と注意点について解説します。

1. 退職所得の計算方法

退職金に税金がかかるかどうかは、「退職所得」が発生するかどうかで決まります
退職所得が発生しなければ、税金はかかりません。

退職所得の計算式は以下の通りです。

(退職金(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)×1/2=退職所得

例えば、2,500万円の退職金で30年勤務した人の「退職所得」は、

(2,500万円-1,500万円)×1/2=500万円(1,000円未満端数切捨て)

となります。

ただし、役員等としての勤務期間がある人で、かつ、その勤続年数が5年以下の場合は、役員等としての勤続年数に対応する退職金は「1/2」にできず、退職金から退職所得控除額を差し引いた金額が「退職所得」となります。

(参考)
5年超だと「1/2」にできるのに、なぜ5年以下だと「1/2」にできないのか、不思議に思う人も多いと思いますが、これは、短期の役員就任の繰り返しによる租税回避行為(給与を低く抑えて退職金で報酬を得る等)を排除するために定められたものです。

 

なお、使用人から役員になる場合、その段階で使用人部分の退職金を清算するか、役員退職時に一括清算するかで、税金が異なってきますので留意が必要です。
会社に確認するようにしましょう。
 


 

2. 退職所得控除額の計算方法

さて、退職金に対する税金を理解するに当たって、もっとも重要な計算が「退職所得控除額」になります。

この控除額が退職金よりも大きければ、そもそも退職所得は発生しないからです。

下記の表が退職所得控除額の計算式です。

退職所得控除額の計算式

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

注1:勤続年数に1年未満の端数があるときは、たとえ1日でも1年として計算。
注2:上記算式によって計算した金額が80万円未満の場合は、80万円。
注3:障害者となったことに直接基因して退職した場合は、上記計算金額に、100万円を加算した金額。

退職所得控除額を計算するには、退職金の計算のもととなった「勤続年数」が何年何か月だったかを確認する必要があります。
ここで、勤続年数に1年未満の端数があるときは、たとえ1日でも1年として計算します。

また、勤続年数が長いほど「退職所得控除額」は大きくなる計算になっています。
20年以下なら1年あたり40万円ずつ、20年を超えると70万円ずつ増えていきます。

例えば、30年勤続した人であれば、

800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円

が「退職所得控除額」です。

つまり、この人の場合なら、退職所得控除額1,500万円の範囲内の退職金であれば、税金はかからないことになります。
 

3. 所得税及び復興特別所得税

「退職所得控除額」以上の退職金がある場合は税金が発生します。
そこで次に、税金が発生する場合の、税金の計算の仕方を説明します。

まず、前述の計算式(以下)から、「退職所得」を計算します。

(退職金(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)×1/2=退職所得
※求めた退職所得の1,000円未満の端数は切り捨てます。

「退職所得」を算出したら、その金額に税率をかけて税額を計算します。

具体的には、税額(所得税及び復興特別所得税の合計金額)は、以下の速算表をもとに計算できます

令和2年分の退職所得の源泉徴収税額の速算表
※表の「課税退職所得金額」が、上記で算出した「退職所得」のことです。

課税退職所得金額(A) 所得税率(B) 控除額(C) 税額=((A)×(B)-(C))×102.1%
195万円以下 5% 0円 ((A)×5%)×102.1%
195万円を超え
330万円以下
10% 97,500円 ((A)×10%-97,500円)×102.1%
330万円を超え
695万円以下
20% 427,500円 ((A)×20%-427,500円)×102.1%
695万円を超え
900万円以下
23% 636,000円 ((A)×23%-636,000円)×102.1%
900万円を超え
1,800万円以下
33% 1,536,000円 ((A)×33%-1,536,000円)×102.1%
1,800万円を超え
4,000万円以下
40% 2,796,000円 ((A)×40%-2,796,000円)×102.1%
4,000万円超 45% 4,796,000円 ((A)×45%-4,796,000円)×102.1%

注1:求めた税額に1円未満の端数があるときは切り捨て。

例えば、課税退職所得金額が500万円の場合、上記計算式から、

(500万円×20%-42万7,500円)×102.1%
=57万2,500円×102.1%
=58万4,522円(1円未満端数切捨て)

となります。

退職金は、総合課税である給与所得や事業所得等とは分離して課税されますが、一律の税率ではなく累進課税です。

しかしながら、原則として退職所得の計算で「1/2」をしていますので、例えば、給与として受け取るよりも、税金としては概ね半分で済むイメージになります。
 

4. 住民税

つぎに、住民税の計算の仕方を説明します。

住民税には市町村民税(特別区民税)の税率6%と、道府県民税(都民税)の税率4%があり、「退職所得」の金額に掛けて、税額を算出します

「退職所得」が500万円の場合、

  • 市町村民税 500万円×6%=30万円(100円未満端数切捨て)
  • 道府県民税 500万円×4%=20万円(100円未満端数切捨て)

となります。

ここまで1~4における例示として、「2,500万円の退職金で30年勤務した人」の退職所得金額と税金を計算してきましたが、まとめると、以下の通りとなります。

項目 金額
退職金 25,000,000円
退職所得控除額(勤続年数30年) 15,000,000円
課税退職所得金額 5,000,000円
所得税及び復興特別所得税額の合計金額 584,522円
住民税(市町村民税) 300,000円
住民税(道府県民税) 200,000円
退職金手取り額 23,915,478円

 

5. 「退職所得の受給に関する申告書」提出で確定申告不要

なお、退職所得は分離課税なので、適切に源泉徴収がされれば、原則として確定申告をする必要はありません。

ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を、退職金の支払いを受けるときまでに、退職金の支払者に提出しておく必要があります。

「退職所得の受給に関する申告書」の提出を行わない場合には、その退職金の金額に一律20.42%の税率で源泉徴収されることになるので注意が必要です。


 

6. 会社側が行う手続き

さて、ここで会社の経理担当の方向けに、退職金支払いに関する対応方法を簡単に記載しておきます。

所得税及び復興特別所得税

退職金を支払うときには、計算した所得税及び復興特別所得税を、原則として翌月の10日までに所轄の税務署に納める必要があります。

「給与所得、退職所得等の所得税徴収高計算書(納付書)」に退職手当等の記載欄がありますので、給与所得等に対する源泉所得税と一緒に納付書で納めます。

住民税

住民税は、退職金の支払いを受ける人の「退職金の支払いを受けるべき日(通常は退職した日)」の属する年の1月1日現在における、住所の所在する市町村に翌月の10日までに納める必要があります。

納付書が手元にある場合には、退職所得分の住民税を記入し納税します。
納付書が手元にない場合には、電話にて取り寄せ、もしくはインターネット等から納付書を打ち出し、納税することになります。

源泉徴収票

また、退職所得の源泉徴収票等を、退職金を支払った全ての方について作成し交付する必要があります。

そのうち、受給者が法人の役員である場合は、源泉徴収票等を税務署と市区町村へ提出しなければなりません。

提出時期は、原則として退職後1ヶ月以内とされていますが、その年中に退職した役員分を取りまとめて翌年の1月31日までに提出しても差し支えないとされています。

税務署には、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」に添付して、翌年1月31日までに提出するのが一般的ではないかと思います。
 

7. まとめ

インターネットには、退職金の税額を自動計算してくれるサイトなどもあるようですが、退職金の税額は高額になることもありえますので、退職所得控除額の考え方などを理解した上で、退職金をいつ、どのようにもらうのが有利なのか、事前にシミュレーションを行い、対策をとっておくことをお勧めします。

注:今回は退職金に対する税金の一般的な計算方法について記載していますので、
例えば、同じ年に2か所以上から退職金を受ける場合、あるいは、前年以前4年以内に他の会社等から退職金を受けている場合等については、別途考慮すべき計算がありますので、ご留意ください。
 
 

本記事の執筆者:
アタックス税理士法人 税理士・CFP 松岡 聡
1998年 三重大学卒。中小企業から上場企業まで幅広い法人顧客を担当。顧客のあらゆる経営課題に対応すべく、資産税や組織再編などの特殊税務に関する支援にも携わる。

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