確定申告

株式の配当金で節税?得する確定申告のしくみ解説!

投稿日:2020年10月12日 更新日:

老後の2,000万円問題が叫ばれて久しい昨今ですが、近年は会社員でもiDecoや株式投資・不動産投資といった資産運用をされている方が増加してきているようです。

順調に財産が拡大していく過程で、必ず生じてくるのが税金の問題です。
ただ、納税者の申告のやり方によっては、その税金を少なくすることができる場合があります。

今回は株式から配当金を受け取った時にかかる税金の仕組みと有利な申告方法を解説します。


 

配当金を受け取った時にかかる税金とは?

まず、上場株式から配当金が支払われる場合には、所得税と住民税の源泉徴収が行われます。
税率は下表の通りです。

所得税 住民税 合計
源泉徴収の税率 15.315% 5% 20.315%
※所得税の小数点以下は復興特別所得税

例えば、保有株式から10,000円の配当金を受け取る場合には、実際に口座に入金される金額は7,969円(10,000円-10,000円×20.315%)となります。

また、上記の通り既に税金が引かれているので、確定申告を行わないで納税を完結することができます。

事務手続き上は、こちらが一番シンプルな形となります。
 

税金を少なくすることができる場合とは?

一方で、所得金額によっては、確定申告で税金を少なくすることができる場合があります。

それでは、確定申告する場合と、源泉徴収で完結させる場合とではどう違うのでしょうか?
それぞれの税率について見ていきましょう。

確定申告する場合の税率

確定申告の申告方法は、「総合課税」と「申告分離課税」の2つの方法から選択できます。
申告方法によって税率が異なります。

また、所得税と住民税で異なる「申告方法」を選択することも可能です。

(参考)確定申告をすれば、通常、住民税の申告は不要になりますが、その際の住民税の「申告方法」は所得税の「申告方法」と同じ方法で処理されます。したがって、所得税と住民税で別の「申告方法」を選択したい場合は、意識的に住民税の申告を行う必要があります。

それでは早速、
・総合課税
・申告分離課税
・所得税を確定申告し住民税を「申告不要」とする場合(この選択も可能です)
・確定申告しない場合
の4パターンで税率を比較してみましょう。

申告方法 所得税率 住民税率
確定申告する 総合課税 累進税率 10%
申告分離課税 15.315% 5%
住民税を申告不要にする 総合課税と申告分離課税
のどちらを選ぶかで異なる
5%
確定申告しない(源泉徴収のまま) 15.315% 5%

お得な申告方法の選択の仕方

上表を見るとわかるとおり、

「申告分離課税」と「確定申告しない」は、所得税・住民税とも同じ税率です。
住民税については、「住民税を申告不要」とした場合も「申告分離課税」と「確定申告しない」と同じ税率です。

「総合課税」は以下のとおり、他と税率に差があります
(注)比較を分かり易くするために、所得税に加算される復興特別所得税(0.315%)は除いています。

◆所得税:累進税率が15%未満なら
総合課税 < 申告分離課税
総合課税 < 確定申告しない

◆所得税:累進税率が15%以上なら
申告分離課税 ≦ 総合課税
確定申告しない ≦ 総合課税

◆住民税:
申告分離課税 < 総合課税
申告不要 < 総合課税
確定申告しない < 総合課税

したがって、所得税率(累進税率)によって、納税額を有利にする(節税する)方法は以下となるわけです。

所得税率 有利な申告方法
所得税 住民税
15%未満 総合課税 申告分離課税
or
申告不要
or
確定申告しない
15%以上 申告分離課税
or
確定申告しない

つまり、所得税率が15%未満の人であれば、所得税は「総合課税」で確定申告し、住民税は「申告分離課税」か「申告不要」とするのがお得ということになります。

15%以上の人は、所得税の「申告分離課税」と「確定申告しない(源泉徴収のまま)」は同じ税率、住民税の「申告分離課税」と「申告不要」と「確定申告しない(源泉徴収のまま)」は同じ税率ですので、確定申告をする必要はないということになります。

ただし、配当金とは別に株式の譲渡損失が生じている場合は、あえて「申告分離課税」を選択してその譲渡損失と配当金の所得を相殺(損益通算)して納税額を少なくすることができます。
 

所得金額でみた場合のお得な申告方法とは?

ここまで、累進税率である所得税率の15%を分岐点として説明してきましたが、
それでは、実際の所得金額でみるといくらが分岐点となるでしょうか?

その前におさらいですが、住民税は所得金額によって有利な申告方法が変わることはありません(常に、申告分離課税or申告不要or確定申告しない、が有利)。

また、所得税も、総合課税にのみ累進税率が影響し、15%という分岐点が生まれています。
したがって、ここでは所得税の総合課税について説明します。

所得金額ごとの実際の税率

まず、総合課税の場合は、所得税、住民税ともに配当控除の適用を受けることができます。

また、所得税は所得金額に応じて税率が変わる(累進課税)ため、所得金額が高い人は、税率も上がることになります。

所得金額ごとの実際の税率は下表の通りです。
なお、ここでも、比較を分かり易くするために、所得税に加算(所得税の2.1%)される復興特別所得税は除いています。

※課税所得金額とは、申告方法を選択しようとする配当所得を含めた所得金額です。

[所得税率]

課税所得金額 所得税 配当控除 実際の税率
195万円以下 5% 10% 0%
195万円超~330万円以下 10% 10% 0%
330万円超~695万円以下 20% 10% 10%
695万円超~900万円以下 23% 10% 13%
900万円超~1,000万円以下 33% 10% 23%
1,000万円超~1,800万円以下 33% 5% 28%
1,800万円超~4,000万円以下 40% 5% 35%
4,000万円超 45% 5% 40%
※復興特別所得税は含めておりません。

この表から、所得税率15%未満とは、実際の税率が13%である「課税所得900万円以下」の人、所得税率15%以上とは「課税所得900万円超」の人が該当することになります。
 

余談ですが、ちなみに、仮に住民税を総合課税で申告すると仮定した場合は、以下の税率となります。

[住民税率]

課税所得金額 住民税 配当控除 実際の税率
1,000万円以下 10% 2.8% 7.2%
1,000万円超~ 10% 1.4% 8.6%

住民税率は総合課税は、「1,000万円以下」「1,000万円超」とも、配当控除の適用を受けても、「申告分離課税or申告不要or確定申告しない」の税率5%より高いことが分かると思います。
 

総合課税・申告分離課税・申告不要の有利判定

以上をまとめると、課税所得金額ごとに納税者が選択すべき有利な申告方法は下表の通りとなります

課税所得金額 有利な申告方法
所得税 住民税
900万円以下 総合課税 申告分離課税
or
申告不要
or
確定申告しない
900万円超 申告分離課税
or
確定申告しない

つまり、課税所得が900万円以下の人であれば、所得税は「総合課税」で確定申告し、住民税は「申告分離課税」か「申告不要」とするのがお得です。

900万円超の人は、所得税の「申告分離課税」と「確定申告しない(源泉徴収のまま)」は同じ税率、住民税の「申告分離課税」と「申告不要」と「確定申告しない(源泉徴収のまま)」は同じ税率ですので、確定申告をする必要はないということになります。

ただし、課税所得金額が900万円以下・900万円超に関わらず、株式の譲渡損失が生じている場合には、所得税も申告分離課税が有利な場合もありますので、併せて確認が必要です。
 

事例

さて、ここからは事例で見ていきましょう。

課税所得金額とは、会社員であればいわゆる年収ではなく、給与所得金額から各種所得控除を差し引いて算出されます。

例えば、年収が900万円(社会保険料108万、配偶者控除あり)、配当所得20万円とすると、以下の計算となります。

①収入:給与900万円+配当20万円=920万円
②給与所得控除:195万円
③所得金額:①-②=725万円
④所得控除:社会保険料控除108万+配偶者控除38万+基礎控除48万=194万円
⑤課税所得金額:③-④=531万円

また上記の例における住民税は、以下の計算となります。

①~③:所得税と同様(③所得金額725万円)
④所得控除:社会保険料控除108万+配偶者控除33万+基礎控除43万=184万円
⑤課税所得金額:③-④=541万円

したがって、上記の例の場合、所得税は「実際の税率」( [所得税率] 表の上から3段目)が10%なので総合課税が有利となります。

一方で、住民税は「実際の税率」( [住民税率] 表の上段)が7.2%なので、申告不要または申告分離課税が有利となります。

※なお、給与所得金額から差し引く給与所得控除額の算出方法は以下の通りです。

収入金額 給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円
1,625,001円から1,800,000円まで 年収×40%-100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで 年収×30%+80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで 年収×20%+440,000円
6,600,001円から8,500,000円まで 年収×10%+1,100,000円
8,500,001円以上 1,950,000円

 

事例の場合、どれくらいお得になる?

上記の場合の「実際の税額」の影響額は以下の通りです。

「源泉徴収で完了した場合」と「有利な申告方法」の比較
算式=(源泉徴収の税額)-(有利な申告方法の税額)
◆所得税:総合課税を選択
 (配当所得20万円×15%)-(配当所得20万円×10%)=10,000円
◆住民税:申告不要または申告分離課税を選択
 (配当所得20万円×5%)-(配当所得20万円×5%)=0円
「総合課税で確定申告し住民税の申告を行わない場合」と「有利な申告方法」の比較
算式=(総合課税の税額)-(有利な申告方法の税額)
◆所得税:総合課税を選択
 (配当所得20万円×10%)-(配当所得20万円×10%)=0円
◆住民税:申告不要または申告分離課税を選択
 (配当所得20万円×7.2%)-(配当所得20万円×5%)=4,400円

つまり、総合課税で確定申告することにより10,000円得をしても、住民税の申告を忘れてしまうと4,400円損してしまう、ということになります(下記)。

「源泉徴収で完了した場合」と「総合課税で確定申告し住民税の申告を行わない場合」との比較
算式=(源泉徴収の税額)-(総合課税の税額)
◆所得税:総合課税を選択
 (配当所得20万円×15%)-(配当所得20万円×10%)=10,000円
◆住民税:何もしない→総合課税になる
 (配当所得20万円×5%)-(配当所得20万円×7.2%)=▲4,400円

住民税の「申告不要」とは申告しないことではなく、
「所得税の申告方法と同じ総合課税ではなく源泉徴収のままにする」という意思表示をするために、「住民税は申告不要」という申告をしなければなりません。
ご注意ください。
 

所得税と住民税で異なる申告方法を採用する場合の手続きは?

所得税と住民税で異なる申告の方法を選択する場合は、所得税の確定申告に加えて、お住まいの市区町村に対して、別途、住民税申告書等を提出する必要があります。

なお、具体的な申告書の様式や手続きについては、お住まいの市区町村ごとに異なりますので、ホームページなどでご確認ください。

 

本記事の執筆者
執筆:アタックス税理士法人 税理士 永井 良輔
監修:アタックス税理士法人 社員 税理士 入駒 慶吾

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