もはや日本は、災害大国と言われるほど毎年のように災禍に見舞われる状況となっています。
あってはなりませんが不幸にして被災の当事者になった場合に、税制面でどのような優遇措置があるのかをまとめてみました。
地震・火災・風水害などにより、住宅や家財・車などに損害を受けた場合、
次の2つのいずれかの方法で、「所得税の所得控除」または「所得税の軽減」を受けることができます。
なお、いずれの方法も所得税の確定申告が必要となります。
2.災害減免法による所得税の軽減免除
上記2つのうち、有利ないずれかを選択することができますので、それぞれの概要を紹介します。
1.所得税法による雑損控除
簡単に言うと「納税者」が「災害」により「生活」に必要な財産に損害を受けた場合、「一定の計算」のもと所得控除を受けることができる制度です。
簡単に言いましたが要件が種々ありますので、以下まとめてみました。
項目 | 内容 |
---|---|
制度の概要 | 災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合等には、一定の金額の所得控除を受けることができます。 |
(1)所有者と(2)資産の要件 | (1) 資産の所有者が次のいずれかであること。 イ:納税者 ロ:納税者と生計を一にする配偶者やその親族で、その年の総所得金額等が48万円以下の者 (2) 棚卸資産若しくは事業用固定資産等又は「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しない資産であること。 |
損害の原因 | (1) 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害 (2) 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害 (3) 害虫などの生物による異常な災害 (4) 盗難 (5) 横領 ※尚、詐欺や恐喝の場合は適用されません。 |
所得控除額の計算 | 次の2つのうちいずれか多い方の金額です。 (1) (差引損失額)-(総所得金額)×10% (2) (差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円 |
その他 | 3年間の繰越が可能です。 |
制度の概要や所有者などは簡単ですが、なかでも「所得控除額の計算」がわかりづらいと思われますので説明いたします。
所得控除額の計算~「差引損失額」
まず、上の表の「所得控除額の計算」にある「差引損失額」とは、次の計算式により求められます。
さらに、この式の「損害金額」とは、損害を受けた直前におけるその資産の「時価」を基礎に計算した額を言います。とはいえ、そもそも時価についてはその立証は困難を極めます。
そこで、国税庁では「損害金額」について、住宅・家財・車両に区分し、一定の指針を開示しています。
<住宅>
損害金額 =(住宅の取得価額 - 減価償却額)× 被害割合
【住宅の取得価額が明らかでない場合】
損害金額 =[(1㎡当たりの工事費用 × 総床面積)-減価償却費]× 被害割合
取得価額が明らかな場合は、取得価額から減価償却費を引いた残額を時価と見なします。
取得価額が明らかでない場合は、住宅においては1㎡当たりの工事費用から計算します。
いずれも、時価が算定できたら、それに「被害割合」を乗じて「損害金額」を計算します。
<家財>
損害金額 =(家財の取得価額 - 減価償却額)× 被害割合
【住宅の取得価額が明らかでない場合】
損害金額 =[家族構成別家庭用財産評価額]× 被害割合
取得価額が明らかな場合は、取得価額から減価償却費を引いた残額を時価と見なします。
取得価額が明らかでない場合は、家財においては家族構成から計算します。
いずれも、時価が算定できたら、それに「被害割合」を乗じて「損害金額」を計算します。
<車両>
※なお、「被害割合」「1㎡当たりの工事費用」「家族構成別家庭用財産評価額」「減価償却額」は、詳細に計算方法等が定められていますので、国税局HPをご参照ください。
国税庁HP「災害により被害を受けられた方へ(雑損控除における「損失額の合理的な計算方法」)」
損害金額の計算例
具体的に【住宅で取得価額が明らかな場合】の損害金額を計算してみましょう。
取得価額 40,000,000円
減価償却 20,000,000円
被害割合 半壊 50%
【住宅で取得価額が明らかな場合】の計算式は以下ですので、
損害金額 =(住宅の取得価額 - 減価償却額)× 被害割合
となります。
所得控除額の計算~「災害関連支出」
冒頭の表の「所得控除額の計算」にある「災害関連支出」とは、災害に関連してやむを得ない支出をいい、具体的には次のようなものを指します。
- 災害により滅失した住宅や家財などの取り壊し、除去、原状回復費用など災害に関連して支出したやむを得ない費用。
「所得税法による雑損控除」のまとめ
ここまで、罹災時の税制面での優遇措置「1.所得税法による雑損控除」について、損害金額と災害関連支出について説明してきました。
復習となりますが、「1.所得税法による雑損控除」における「所得控除額の計算」は次のように定められていますので、損害金額や災害関連支出を計算したら、次の式で所得控除額を計算することになります。
(1) (差引損失額)-(総所得金額等)×10%
(2) (差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円
差引損失額 = 損害金額 + 災害関連支出 - 保険金等の補填額
2.災害減免法による所得税の軽減免除
それでは次に、「2.災害減免法による所得税の軽減免除」について紹介します。
以下の表のとおり定められています。
項目 | 内容 | |
---|---|---|
制度の概要 | 所得金額に応じた所得税の軽減又は免除 | |
損害の要因 | 災害によって受けた住宅や家財の損失 | |
算定基準 (AND条件) |
・災害によって受けた住宅や家財の損害額(保険金控除後)が時価の1/2以上であること ・災害に遭った年の所得金額の合計が1,000万円以下であること |
|
所得税の軽減額 | (所得金額の合計額↓) | (軽減又は免除される所得税の額↓) |
500万円以下 | 所得税の額の全額 | |
500万円を超え750万円以下 | 所得税の額の2分の1 | |
750万円を超え1,000万円以下 | 所得税の額の4分の1 | |
その他 | 災害に遭った年度のみ |
※算定基準にある時価とは、雑損控除を計算する根拠である「損害金額」と同様です。
「1.雑損控除」と「2.災害減免法」の比較
以上から、
1.所得税法による雑損控除
2.災害減免法による所得税の軽減免除
を比較してみると、次のようにまとめられます。
雑損控除 | 災害減免法 | |
---|---|---|
方法 | 所得控除 | 税額の免除又は軽減 |
適用災害 | 災害を含み盗難等にも適用 | 災害のみ |
所得税制限 | なし | 1,000万円以下 |
適用年度 | 3年間繰越可能 | 被災年度のみ |
住民税 | 適用有 | 適用無し |
この比較表のとおり、1と2では、
- 所得控除と税額減免の違い
- 所得制限の有無
- 3年間繰越の有無
- 住民税への適用の有無
に差があることが分かります。
一般的には所得が500万以下の場合は「2.災害減免法による所得税の軽減免除」を適用したほうが有利と言われますが、ケースバイケースですので両者それぞれの計算をして比較するべきでしょう。
適用を受けるための書類
最後に、適用を受けるために書類などの必要書類を紹介しておきます。
なお、いずれの方法も所得税の確定申告で手続きを行うことになります。
①罹災証明
申告に必ずしも必要ではありませんが、この制度以外にも税金手続きのスムーズに進めるために取得しましょう。
②被災資産の時価算定
売買契約書など取得時を証明するものがあればベストですが、先に述べた通り無くても適用は可能です。
③災害関連支出
災害により生じた土砂の除去支出、住宅や家財の原状回復費、住宅・家財など損壊や価値の減少を防止するための支出など、支出を証明する領収書も保存してください。
④保険金による補填
差引損害額を計算する場合に保険金受領額は控除することから、保険金の計算書も必要になります。
アタックス税理士法人 主席コンサルタント 岡田 昌樹
1985年 名古屋商科大卒。専門性の高い税務を噛み砕いて判りやすく指導する事に定評がある。幅広い顧客のサポート経験から最近では特に中小企業が抱える諸問題の相談に軸足をおいて活躍中。