2018年分の所得税から、配偶者控除・配偶者特別控除の制度が改正されています。
また、2020年分(令和2年分)からは、所得控除及び基礎控除の改正により、配偶者控除・配偶者特別控除の適用要件も一部見直しされました。
そこで今回は、改めて所得税の配偶者控除と配偶者特別控除の適用要件や留意点について整理をしていきたいと思います。
なお、以下は2020年分(令和2年分)以降の所得税を前提に記載しています。
1.配偶者控除
配偶者控除の要件
配偶者控除の控除額
2.配偶者特別控除
配偶者特別控除の要件
配偶者特別控除の控除額
「3つの壁」とは?
3.配偶者の年収を考える際の留意点
社会保険の扶養の範囲
各企業における家族手当の適用範囲
4.関連する税金
住民税における配偶者控除及び配偶者特別控除
配偶者本人の所得税及び住民税
5.おわりに
1.配偶者控除
配偶者控除の要件
配偶者控除が受けられるかどうかは、その年の12月31日の現況で決まります。
つまり、年末の状態でそれまでの1年間の所得税が正式に決まりますので、年末調整あるいは確定申告で所得税の過不足額が精算されるということになります。
具体的には、12月31日の現況が以下の要件のすべてに当てはまる場合に配偶者控除の対象となります。
- ① 控除を受ける納税者本人のその年における「合計所得金額」が1,000万円以下であること
- ② 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)
- ③ 配偶者が納税者と生計を一にしていること
- ④ 配偶者が青色申告者の事業専従者としての給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと
- ⑤ 配偶者の年間の「合計所得金額」が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下となります)
※上記の「合計所得金額」には、給与所得以外に、不動産所得、一時所得、譲渡所得なども含まれますのでご注意ください。
配偶者控除の控除額
配偶者控除の控除額は、控除を受ける納税者本人の「合計所得金額」と配偶者の「年齢」により、以下の表の通りとなります。
※12月31日現在の年齢が70歳以上の人を「老人控除対象配偶者」といいます。
控除額 | |||
---|---|---|---|
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | |||
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1,000万円以下 |
|
一般の控除対象配偶者 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
老人控除対象配偶者 | 48万円 | 32万円 | 16万円 |
合計所得金額の「所得」とは「収入」そのものではありません。
「収入」から「必要経費」を引いて残った額が「所得」です。
たとえば、サラリーマンの方の場合、源泉徴収前の給与・賞与などの収入金額から給与所得控除額を差し引いた金額が「給与所得」となります。
そこで、合計所得金額が給与所得だけの場合、給与・賞与などの収入金額はいくらに該当するかを参考まで示しておきます。
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | |||
---|---|---|---|
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1,000万円以下 |
|
納税者本人が給与所得だけの場合 の給与等の収入金額 |
1,095万円以下 | 1,095万円超 1,145万円以下 |
1,145万円超 1,195万円以下 |
(参考)配偶者が障害者の場合
なお、配偶者が障害者の場合には、配偶者控除の他に障害者控除27万円(特別障害者の場合は40万円、同居特別障害者の場合は75万円)が控除できます。
また、障害者控除は、納税者本人の所得が1,000万円を超え、配偶者控除の適用が無い場合においても、適用することが可能です。
2.配偶者特別控除
配偶者特別控除の要件
配偶者特別控除も、その年の12月31日の現況で決まります。
以下の要件のすべてに当てはまる場合には、配偶者特別控除の対象となります。
- ① 控除を受ける納税者本人のその年における「合計所得金額」が1,000万円以下であること
- ② 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)
- ③ 配偶者が納税者と生計を一にしていること
- ④ 配偶者が青色申告者の事業専従者としての給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと
- ⑤ 配偶者の年間の「合計所得金額」が48万円超133万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円超201万円未満となります)
- ⑥ 配偶者が、配偶者特別控除を適用していないこと(配偶者特別控除は夫婦の間で互いに受けることはできません)
※上記の「合計所得金額」には、給与所得以外に、不動産所得、一時所得、譲渡所得なども含まれますのでご注意ください。
上記をみて分かるとおり、①~④は配偶者控除と同一の要件となっています。
違いは⑤⑥ですが、ポイントは⑤で、配偶者控除との違いを確認すると、
配偶者の年間の「合計所得金額」が48万円以下であること
配偶者特別控除の⑤:
配偶者の年間の「合計所得金額」が48万円超133万円以下であること
と、配偶者の所得要件で配偶者控除が受けられない場合でも、配偶者特別控除は受けられる可能性があるということになります。
配偶者特別控除の控除額
配偶者特別控除の控除額は、控除を受ける納税者本人のその年における「合計所得金額」と、配偶者の「合計所得金額」に応じて以下の表の通りになります。
配偶者の合計所得金額 | 【参考】 配偶者の収入が給与所得だけ の場合の 配偶者の給与等の収入金額 |
控除額 | ||
---|---|---|---|---|
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | ||||
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1,000万円以下 |
||
48万円超 95万円以下 |
1,030,000円超★1 1,500,000円以下 |
38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超 100万円以下 |
1,500,000円超★2 1,550,000円以下 |
36万円 | 24万円 | 12万円 |
100万円超 105万円以下 |
1,550,000円超 1,600,000円以下 |
31万円 | 21万円 | 11万円 |
105万円超 110万円以下 |
1,600,000円超 1,667,999円以下 |
26万円 | 18万円 | 9万円 |
110万円超 115万円以下 |
1,667,999円超 1,751,999円以下 |
21万円 | 14万円 | 7万円 |
115万円超 120万円以下 |
1,751,999円超 1,831,999円以下 |
16万円 | 11万円 | 6万円 |
120万円超 125万円以下 |
1,831,999円超 1,903,999円以下 |
11万円 | 8万円 | 4万円 |
125万円超 130万円以下 |
1,903,999円超 1,971,999円以下 |
6万円 | 4万円 | 2万円 |
130万円超 133万円以下 |
1,971,999円超 2,015,999円以下★3 |
3万円 | 2万円 | 1万円 |
★1~3については、次項で解説します。
なお、配偶者が障害者の場合、
配偶者控除は、配偶者控除の他に障害者控除も受けられましたが、
配偶者特別控除の対象となる場合(配偶者の所得が48万円を超える場合)は、配偶者が障害者であっても障害者控除の適用はありませんのでご注意ください。
「3つの壁」とは?
ところで、一般によく言われている「3つの壁」とはどういう意味なのか知りたい方も多いと思いますので、ここで上記の表中の★1~3について解説します。
★1「103万の壁」
配偶者の給与収入が103万円を超えると、配偶者控除の対象から外れ、配偶者特別控除の適用となります。
言い換えると、納税者が配偶者控除を受けられる年収の上限が103万円です。
また、103万円は、配偶者自身の所得税がかからずに済む年収上限でもあり、住民税も年間数千円程度の支払で済みます。
★2「150万の壁」
配偶者の給与収入が150万円を超えると、配偶者特別控除の金額が上記表の通りに減額していきます。
納税者が配偶者特別控除を「満額」受けられる年収の上限が150万円となります。
★3「201万の壁」
配偶者の給与収入が201万円を超えると、配偶者特別控除の適用が無くなります。
3.配偶者の年収を考える際の留意点
社会保険の扶養の範囲
控除対象である配偶者の年収を考える際に、注意が必要となるのが社会保険の扶養範囲です。
配偶者が、納税者の社会保険の扶養から外れると、配偶者自身が社会保険もしくは国民健康保険・国民年金へ加入しなければなりません。
一般的には「130万円の壁」と言われており、配偶者の給与収入が130万円を超えると社会保険の扶養から外れると考えられています。
(配偶者の勤務先によっては、給与収入106万円を超えた場合に、社会保険への加入が義務付けられている場合もあります。)
配偶者の収入額が大きく変動する場合には、納税者および配偶者の勤務先へ事前に確認することをお勧めします。
各企業における家族手当の適用範囲
納税者の勤務先によって、家族手当や扶養手当など、家族を持つ社員に対しての手当てを支給している場合もあります。
家族手当の基準は、各企業により様々です。
例えば、配偶者に対する家族手当の支給基準が「所得税法に定める配偶者控除対象」とされている場合は、配偶者の給与収入が103万円超だと家族手当が支給されないことになります。
仮に、家族手当が月額1万円だとすれば、年間12万円の手当がもらえないことになります。
配偶者の収入額が大きく変動する場合には、納税者の勤務先へ事前に確認することをお勧めします。
4.関連する税金
最後に、配偶者に関係するその他の税金について簡単に触れておきます。
住民税における配偶者控除及び配偶者特別控除
2021年分(令和3年分)の住民税においても、配偶者控除・配偶者特別控除の「所得要件」が見直されています。
配偶者控除の対象となる配偶者の合計所得金額が48万円以下(改正前:38万円以下)、
配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額が48万円超133 万円以下とされました(改正前:38 万円超123 万円以下)。
詳しくはお住まいの市区町村のHPなどでご確認ください。
配偶者本人の所得税及び住民税
配偶者の収入金額によっては、配偶者にも税金がかかりますのでご留意ください。
配偶者の収入が給与のみであった場合は以下の通りとなります。
所得税
給与収入が「103万円」を超えた場合、その超えた部分の収入に対し所得税がかかります。
計算式は以下の通りです。
(給与収入金額-給与所得控除額-基礎控除額)× 税率=所得税額(100円未満切り捨て)
【例】給与収入が150万円だった場合
所得税額=(150万円-55万円-48万円)× 5%=23,500円
住民税
住民税は、所得金額に応じて計算される「所得割」と、所得金額にかかわらず一定である「均等割」から成ります。
「所得割」は非課税となる所得の限度額が35万円で、これを給与収入に換算すると100万円ですので、給与収入が100万円以下でほかに所得がない場合は、「所得割」はかかりません。
ただし、「均等割」は100万円以下の場合でも、各都道府県や市区町村によってはかかる場合があります。
住民税は、計算方法や非課税限度額が市区町村で異なりますので、お住まいの市区町村のHPなどで確認してください。
5.おわりに
配偶者控除・配偶者特別控除は2018年に大きく改正がされ話題になったものの、
実際には、制度の改正が追い付いておらず、パート主婦(夫)の働き方には足止めがかかっているように感じます。
生計を一にしているご夫婦であれば、世帯単位での収入把握が必要になります。
今後の働き方については、上記の控除額表や各収入の壁をご参考に、ご検討いただくことをお勧めします。
執筆:アタックス税理士法人 コンサルタント 大山 茜
監修:アタックス税理士法人 税理士・CFP 松岡 聡