資産運用

iDeCoの出口戦略!トクする受け取り方徹底解説!

投稿日:2022年6月29日 更新日:

「貯蓄から投資へ」という国のスローガンのもと、資産運用の代表格としてiDeCo(個人型確定拠出年金)を利用されている方も多いかと思います。

この制度は政府主導のため、①拠出時に所得控除・②運用益は非課税・③受取時は退職所得控除など、拠出から受け取りまで税制上は手厚い優遇措置を受けることができます。

その中で、特に③については受け取り方によって税金が大きく異なる可能性があることはご存じでしょうか?
今回は出口である受け取り方について、解説していきたいと思います。

1. iDeCoの受け取り方は3種類

まず、iDeCoの拠出金は原則60歳以降に受け取ることができ、受け取り方は3種類あります。

一括で受け取り(一時金)
分割で受け取り(年金)
①②の併用

税金の計算上、①は退職所得、②は雑所得として取り扱われます。
それぞれの所得金額の計算方法は以下の通りです。

①一括で受け取り(一時金)【退職所得】

(受取金額 - 退職所得控除額)× 1/2 = 課税退職所得
※退職所得控除額は下表参照
勤続(加入)年数(=A) 退職所得控除額
20年以下 40万円 × A
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超 800万円 + 70万円 × (A-20年)

出典:国税庁HP No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
 

②分割で受け取り(年金)【雑所得】

年金の場合は、収入金額によって、雑所得の金額が以下のように計算されます。

公的年金等の収入金額※ 公的年金等に係る雑所得の金額
65歳未満 60万円以下 0円
60万円超130万円未満 収入金額-60万円
130万円以上410万円未満 収入金額×0.75-27万5千円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85-68万5千円
770万円以上1,000万円未満 収入金額×0.95-145万5千円
1,000万円以上 収入金額-195万5千円
65歳以上 110万円以下 0円
110万円超330万円未満 収入金額-110万円
330万円以上410万円未満 収入金額×0.75-27万5千円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85-68万5千円
770万円以上1,000万円未満 収入金額×0.95-145万5千円
1,000万円以上 収入金額-195万5千円

出典:国税庁HP 高齢者と税(年金と税)
※収入金額は受取金額と読み替えてください。
※公的年金等とは、厚生年金保険、国民年金、共済組合、恩給、厚生年金基金、国民年金基金などで、ここにiDeCo受取額(年金)が加わります。

基本的には60歳以降、75歳までの間に上記①か②のいずれかの方法、または、①②を併用する方法にて受け取ることになります。
 

2. iDeCoと退職金、受け取りの順番が重要!

そこで今回は、受け取り方によって税金が異なることを、簡便的に「一時金で受け取り」のケースでご紹介します。

会社員の方は、一般的に定年時に退職金を受け取ることができますが、iDeCoを一時金として受け取る際に注意したいのが、iDeCoと退職金の受け取る順番です。

複数の退職所得を受け取る場合、iDeCoは過去19年以内・退職金は過去4年以内に他の退職所得を受け取っている場合には、退職所得控除を重複して利用することができません

この場合、勤続(加入)年数に応じた退職所得控除を、iDeCo・退職金それぞれから控除することになります。
次の項では、具体的な事例でシミュレーションしてみます。
 

3. 退職所得控除のシミュレーション

[前提] 
60歳時点
勤続年数:30年
iDeCo加入年数:30年
(注)以下、65歳受け取りの場合は65歳まで勤続(加入)を意味します。

次のケースで利用できる退職所得控除の金額は、それぞれ以下となります。

① 60歳でiDeCo・退職金同時に受け取り

前述の「一括で受け取り(一時金)【退職所得】」の表の計算式より、
「勤続(加入)年数(=A)」が20年超の場合は、
退職所得控除の金額=800万円 + 70万円 × (A – 20年)
ですので、

iDeCo・退職金に係る退職所得控除の合計額:1,500万
(計算式:800万+70万×(30年-20年))

となります。

② 60歳で退職金、65歳でiDeCo受け取り

退職金:1,500万(①と同じ計算式)
iDeCo:350万
(計算式:800万+70万×(35年-20年)-1,500万)※

退職金・iDeCoに係る退職所得控除の合計額:1,850万

(※)iDeCoは過去19年以内に他の退職所得を受け取っている場合には、退職所得控除を重複して利用することができませんので、重複期間分(30年分)が調整されます(1,500万がマイナスされる)。

③ 60歳でiDeCo、65歳で退職金受け取り

iDeCo:1,500万(①と同じ計算式)
退職金:1,850万
(計算式:800万+70万×(35年-20年))※2

iDeCo・退職金に係る退職所得控除の合計額:3,350万

(※2)退職金の場合は、退職所得控除の重複利用ができないのが、過去4年以内に他の退職所得を受け取っているケースですので、この例では5年前にiDeCoを受け取っているため重複期間分の調整はありません。

出典:国税庁HP No.2732 退職手当等に対する源泉徴収

退職所得控除シミュレーションまとめ

上記の通り、iDeCo・退職金の受け取る順番およびその間隔をどれだけ空けるかによっては、利用できる退職所得控除の額に大きく差が出ることがわかります

では次に、上記によって税額がどれくらい変わり、手取り額がどれほど異なるのかを見ていきたいと思います。
 

4. 税額シミュレーション

退職所得は、受け取った金額に応じて、以下の計算により税金がかかります。

A 課税退職所得金額 B 税率
(住民税含む)
C 控除額
1,000円から1,949,000円まで 15% 0円
1,950,000円から3,299,000円まで 20% 97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで 30% 427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで 33% 636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで 43% 1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで 50% 2,796,000円
40,000,000円以上 55% 4,796,000円

出典:国税庁HP 退職金と税

では、受け取り方により税金がどれくらい変わるのか、上記3の各パターンに手取り額を追加して再度シミュレーションしてみましょう。

[前提]
60歳時点
勤続年数:30年
iDeCo加入年数:30年
退職金受取額:1,500万円
iDeCo受取額:1,500万円
(注)以下、65歳受け取りの場合は65歳まで勤続(加入)を意味します。

① 60歳でiDeCo・退職金同時に受け取り

①の場合、
iDeCo・退職金に係る退職所得控除の合計額:1,500万
でした。

また、冒頭の「一括で受け取り(一時金)【退職所得】」の黄アミ掛け部分で紹介した通り、
(受取金額-退職所得控除額)×1/2=課税退職所得
ですので、
(1,500万円+1,500万円-1,500万)×1/2=750万
が課税退職所得となります。

上の税額の表の課税退職所得金額750万の欄を見ると、税率33%、控除額63.6万ですので、
iDeCo・退職金合計に係る税額:183.9万円
(計算式:750万×33%-63.6万=183.9万円)
と計算されます。

したがって、受取額合計3,000万から税額を差し引くと、
iDeCo・退職金合計に係る手取り額:2,816万円
となります。

② 60歳で退職金、65歳でiDeCo受け取り

同様に、
②の場合、
退職金に係る退職所得控除:1,500万
iDeCoに係る退職所得控除:350万
でしたので、
(受取金額-退職所得控除額)×1/2=課税退職所得
に当てはめ課税退職所得を計算し、上表で税額を計算すると、

税額は、
退職金:0円(1,500万-1,500万)…課税退職所得がゼロ
iDeCo:129.75万円
(計算式:(1,500万-350万)×1/2×30%-42.75万=129.75万円)
退職金+iDeCoに係る税額:129.75万円

したがって、
退職金+iDeCoに係る手取り額:2,870万円
となります。

③ 60歳でiDeCo、65歳で退職金受け取り

③の場合、
iDeCoに係る退職所得控除:1,500万
退職金に係る退職所得控除:1,850万
でしたので、
(受取金額-退職所得控除額)×1/2=課税退職所得
に当てはめると、以下のように課税退職所得がゼロですので、

iDeCo:0円(1,500万-1,500万)…課税退職所得がゼロ
退職金:0円(1,500万-1,850万)…課税退職所得がゼロ
iDeCo+退職金に係る税額:0円
iDeCo+退職金に係る手取り額:3,000万円
となります。

税額シミュレーションまとめ

上記の通り、iDeCoを先に受け取り、5年以後に退職金を受け取る③のパターンが、それぞれの退職所得控除を最大限利用することができるため、税額が一番少なくなります

また、②のように退職金を先に受け取った場合でも、出来る限りiDeCoの受け取りを遅らせることで、控除額を増やすことができます

今回は、簡便的に一時金での受け取りのみでシミュレーションしておりますが、年金での受け取りを併用することで、更に税額を減らすことができるケースもあります。
 

5. 最後に

2024年12月から公務員や企業年金に加入する人の掛金上限が月12,000円から月20,000円に増額されることが決定しております。

また、2024年6月現在、その他の対象者においても掛金上限の引き上げが議論されており、今後ますます老後資金確保の手段としての重要性が高まってくると言えます。

一方で、今後の度重なる税制改正により、将来の受け取り時に課税関係も変わっている可能性もあるなど、必ずしも今回のような出口戦略が有効に機能するとは限りません。

ご自身の状況に応じて、最適な方法を選択するための事例のひとつとして参考にしてください。

本記事の執筆者
執筆:アタックス税理士法人 税理士 永井 良輔
監修:アタックス税理士法人 税理士 入駒 慶吾

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