自宅を何らかの理由で売却しようとした場合、利益が出る場合、出ない場合とありますが、今回はそれぞれで税制の特例を確認していこうと思います。
1. 3,000万円控除特例
2. 軽減税率の特例
3. 買い換え特例(利益の繰延)
4. 買い換え特例(損失の損益通算・繰越控除)
5. 住宅ローンが残っている譲渡損失の通算及び繰越控除特例
1.3,000万円控除特例
(1)特例の内容
「3,000万円控除特例」は、正式には「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といい、自宅を売却して利益が出た場合、利益から3,000万円控除できるという制度です。
・利益が5,000万円の場合
5,000万円-3,000万円=2,000万円が税金対象となります。
・利益が2,000万円の場合
2,000万円-3,000万円=0となります。
(2)主な要件
「3,000万円控除特例」を受けるには、一定の要件をすべて満たす必要があります。
主な要件としては以下があげられます。
- 自分が住んでいる家屋又は家屋と土地を売却すること
- 過去住んでいて現在は住んでいない場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の12月31日までに売却すること
(家屋を取り壊していて、土地のみになっている場合には他の要件があります) - 売却先が親族等でないこと
詳しい要件等、詳細については国税庁HPを参照ください。
国税庁HP No.3302 マイホームを売ったときの特例
2.軽減税率の特例
(1)特例の内容
本来、自宅を売却した際の利益にかかる税率(所得税+住民税)は、取得から売却した年の1月1日までの「所有期間」に応じて、以下のように定められています。
所有期間 | 税率(所得税+住民税) |
---|---|
5年以下の場合 | 39.63% |
5年超の場合 | 20.315% |
軽減税率の特例は、所有期間が10年超であることなど一定の要件を満たせば、利益の6,000万円以下の部分については20.315%ではなく、14.21%の税率になるという制度です。
また、1の「3,000万円控除特例」と併用が可能です。
利益が8,000万円で、1と2の制度が使える場合の税額計算は下記の通りとなります。
8,000万円-3,000万円=5,000万円…(6,000万円以下)
5,000万円×14.21%=710.5万円
(2)主な要件
「軽減税率の特例」を受けるには、一定の要件をすべて満たす必要があります。
主な要件としては以下があげられます。
- 自分が住んでいる家屋又は家屋と土地を売却すること
- 過去住んでいて現在は住んでいない場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の12月31日までに売却すること
(家屋を取り壊していて、土地のみになっている場合には他の要件があります) - 売却先が親族等でないこと
- 売却した年の1月1日において所有期間が10年を超えていること…★
1の「3,000万円控除特例」の要件に、所有期間10年(★)が追加されたと思っていただければ大丈夫です。
詳しい要件等、詳細については国税庁HPを参照ください。
国税庁HP No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
3.買い換え特例(利益の繰延)
(1)特例の内容
正式には「特定の居住用財産の買換えの特例」といい、自宅を売却して利益が出て、自宅を買い換えした場合、利益を繰延することができる制度となります。
利益の繰延とは、利益への課税を将来に先延ばしにできるという意味です。
例えば、自宅Aを売却して利益が5,000万円出た場合で、買い換えの自宅Bを5000万円で購入しこの制度を活用すれば、利益5,000万円を繰延することができます。
いつまで繰延することができるかというと、買い換えの自宅Bを売却するまで繰延することができます。
自宅Aを売却:利益5,000万円
買い換えの自宅Bを5,000万円で購入し「買い換え特例」を活用(利益を繰延)。
↓
自宅Bを7,000万円で売却:利益2,000万円(7,000万円-5,000万円)
↓
課税対象となる利益=今回の利益2,000万円+以前繰延した利益5,000万円=7,000万円
(2)主な要件
「買い換え特例(利益の繰延)」を受けるには、一定の要件をすべて満たす必要があります。
主な要件としては以下があげられます。
- 自分が住んでいる家屋又は家屋と土地を売却すること
- 過去住んでいて現在は住んでいない場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の12月31日までに売却すること
(家屋を取り壊ししていて、土地のみになっている場合には他の要件があります) - 売却先が親族等でないこと
- 売却した年の1月1日において所有期間及び居住期間が10年を超えていること
- 1の「3,000万円控除特例」や2の「軽減税率の特例」等の特例を、売却した年、その前年、その前前年で適用していないこと
- 売却代金が1億円以下であること
- 買い換えの自宅建物の床面積が50㎡以上で、土地の面積が500㎡以下であること
- 売却した年の前年から売却した翌年までの3年の間に買い換えし、買い換えした翌年12月31日までに住むこと
詳しい要件等、詳細については国税庁HPを参照ください。
国税庁HP No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例
4.買い換え特例(損失の損益通算・繰越控除)
(1)特例の内容
正式には「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」といいます。
具体的には、自宅を売却して損失が出て、自宅を買い換えした場合、その損失を給与所得や不動産所得等、他の所得から控除(損益通算といいます)することができます。
また、控除しきれなかった損失は3年間繰り越す(繰越控除)ことができる制度となります。
自宅を売却して1,000万円の損失が出て、この制度の要件を満たしている場合なら、不動産所得が400万円あれば、
- 不動産所得400万円から、譲渡損失1,000万円のうち400万円を控除し、0とすることができます。(損益通算)
- また、譲渡損失1,000万円のうち400万円を控除したため、残り600万円を翌年以後3年間繰り越すことができます。(繰越控除)
(2)主な要件
損失について「買い換え特例」を受けるには、一定の要件をすべて満たす必要があります。
主な要件としては以下があげられます。
- 自分が住んでいる家屋又は家屋と土地を売却すること
- 過去住んでいて現在は住んでいない場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の12月31日までに売却すること
(家屋を取り壊ししていて、土地のみになっている場合には他の要件があります) - 売却先が親族等でないこと
- 売却した年の1月1日において所有期間が5年を超えていること
- 令和5年12月31日までの譲渡に限ること
- 1の「3,000万円控除特例」、2の「軽減税率の特例」、3の「買い換え特例(利益の繰延)」等の特例を、売却した年、その前年、その前前年で適用していないこと
- 買い換えの自宅建物の床面積が50㎡以上であること
- 売却した年の前年から売却した翌年までの3年の間に買い換えし、買い換えした翌年12月31日までに住むこと
- 買換えした自宅について償還期間10年以上の住宅ローンを組んでいること(買い換えした自宅について住宅ローン控除は適用可)
- 合計所得金額が3,000万円を超える年分については繰越控除はできません(損益通算は可)
詳しい要件等、詳細については国税庁HPを参照ください。
国税庁HP No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
5.住宅ローンが残っている譲渡損失の通算及び繰越控除特例
(1)特例の内容
正式には「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」といいます。
住宅ローン残高を下回る価額で自宅を売却して損失が出た場合、損失を給与所得や不動産所得等他の所得から控除(損益通算)することができます。
また、控除しきれなかった損失は3年間繰り越す(繰越控除)ことができる制度となります。
ただし損益通算できる限度額は、住宅ローン残高から売却価額を差し引いた残りの金額となります。
4の特例との違いは、買い換えする必要がない点と、住宅ローン残高があることが要件になっている点です。
購入金額4,500万円、売却金額2,000万円、住宅ローン残高3,000万円のケースでは、
譲渡損失は2,500万円(4,500万円-2,000万円)ですが、
損益通算できる限度額は1,000万円(3,000万円-2,000万円)となります。
(2)主な要件
この特例を受けるには、一定の要件をすべて満たす必要があります。
主な要件としては以下があげられます。
- 自分が住んでいる家屋又は家屋と土地を売却すること
- 過去住んでいて現在は住んでいない場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の12月31日までに売却すること
(家屋を取り壊ししていて、土地のみになっている場合には他の要件があります) - 売却先が親族等でないこと
- 売却した年の1月1日において所有期間が5年を超えていること
- 令和5年12月31日までの譲渡に限ること
- 1の「3,000万円控除特例」、2の「軽減税率の特例」、3の「買い換え特例(利益の繰延)」等の特例を、売却した年、その前年、その前前年で適用していないこと
- 売却した自宅の売買契約日の前日において、償還期間10年以上の住宅ローン残高があり、売却額が、住宅ローン残高を下回っていること
- 合計所得金額が3,000万円を超える年分については繰越控除はできません(損益通算は可)
詳しい要件等、詳細については国税庁HPを参照ください。
国税庁HP No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
最後に
自宅の売却については税制上色々な特例制度がありますが、その適用要件については細かく規定されています。
自宅を売却されるケースでは適用できる特例、併用できない特例がないかを確認いただき、特例を適用される場合は適用要件等慎重にご検討ください。
アタックス税理士法人 税理士 武田太一
2000年 名古屋市立大学卒。税務顧問、財産顧問業務を中心に現在約60社のクライアントを担当。税金だけでなく経営の視点からも問題解決を図っている。