新年度になると多くの人が、希望あふれる新社会人生活を始めます。新社会人の中には、学生時代に借りた奨学金の返済がスタートする人もいるかもしれません。
最近では、優秀な人財を確保したいという企業が、この奨学金の返還支援を導入するケースが増えてきています。
そこで今回は、奨学金の「受給」や「返還支援」に伴う課税関係を解説します。
1.奨学金の種類
奨学金は大きく分けて、以下の2つがあります。
- 返済が必要ない「給付奨学金」
- 返済が必要な「貸与奨学金」
「給付奨学金」は入学金や授業料が免除され、または奨学金の支給を受けるものになりますので、いわば「学費をもらえる」制度です。
「貸与奨学金」は無利子で借りるか、有利子で借りるかの違いはありますが、「学費を貸してもらえる」制度となります。
2.「給付奨学金」の課税関係
「給付奨学金」は学費をもらえる制度ですので、もらった分だけ経済的利益(儲け)を受けることになります。ただし、
学資に充てるために給付する金品については所得税を課さない(所法9①十五)
と所得税法に定められていますので、この経済的利益は非課税となります。
3.「貸与奨学金」の課税関係
1)働いて自らが返済するケース
「貸与奨学金」は学費を借りる制度ですので、新社会人となって自らが返済することを前提としています。
借りた学費を自らが返済する場合には、経済的利益を受けることはありませんので、課税関係が生じることはありません。
2)会社が返還支援するケース
■ ①学費に充てることの証明を「求める」給与手当 ■
「貸与奨学金」のうち、人財確保の目的で会社が代わりに負担してくれる場合には、自らは借金を返済しなくてもよくなります。
この借金を肩代わりしてもらえるケースは、その分経済的利益を受けることとなります。ただし、
学資に充てるため給付される金品で、給与その他対価の性質を有するもののうち、給与所得を有する者がその使用者から受けるものであって、通常の給与に加算して受けるものについては、所得税を課さない(所法9①十五)
と所得税法に定められているため、この経済的利益は非課税となります。
言い換えると、給料に上乗せして支給されるお金が、貸与奨学金の返済に使われていることがしっかりと証明できるのであれば、給料上乗せ分(返済充当分)について所得税が課税されることはないということになります。
具体的には、貸与奨学金の借入返済明細や貸与先機関の返済証明書などを受取って、肩代わりしてくれている会社に提出していれば、給料の上乗せ分が貸与奨学金の返済に使われていることが明らかになりますので、所得税法上の非課税として扱われることになります。
■ ②学費に充てることの証明を「求めない」給与手当 ■
「貸与奨学金」を会社が肩代わりしてくれるケースでも、会社が上記①の証明を求めないことも想定されます。
貸与奨学金分を給料に上乗せして、返還支援とするものの、証明を求めるまでは至らない場合には、返済に充てることも可能ですし、上乗せ分を別の支出に充てた上で、返済は自らのお金で行うということも可能となります。
このように使い道を自らの意思で選択できる場合は、上記①の非課税扱いとはならず、所得税の課税対象として扱われます。
■ ③代理返還制度を活用するケース ■
上記①②は社員の給料に上乗せ(従業員を経由)するケースですが、「貸与奨学金」は、会社から貸与機関に「直接」返還する(従業員を経由しない)ことも可能となっています。
この直接返還する「代理返還制度」は令和3年4月に日本学生支援機構(JASSO)が開始した新しい制度になります。
従業員を経由せずに、会社が直接返還する仕組みということは、給与としての性質はないものと考えられる(お金の使い道を自らの意思で選択できない)ため、「学資に充てるための金品」(上記の所法9①十五)として取り扱われることになり、上記①同様、非課税となります。
この「代理返還制度」は日本学生支援機構(JASSO)の貸与奨学金に限られますので、例えば通っていた大学や別の団体から貸与された奨学金は対象外となります。
4.おわりに
奨学金の返済といっても、課税関係に違いがあることがお分かり頂けましたでしょうか。
優秀な人財を確保しようと、会社は様々な制度を新社会人に提供し続けています。
奨学金の返還支援を提供してくれる会社で社会人生活をスタートする人は、今回の内容を参考に「知らなかった…」というようなことがないようにして頂ければと思います。
アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村松 宏昭
2000年 東洋大学卒。公認会計士・税理士事務所勤務を経て、アタックスに参画。中小企業から上場会社まで幅広い顧客を担当。お客様中心主義の税務サービスを信条とし、経営者に対する財務面からの熱血指導でも定評がある。