所得控除の基本(2)に続き、
以下の所得控除のうち、
2.配偶者控除(配偶者特別控除を含む)
3.扶養控除
4.勤労学生控除
5.寡婦控除・ひとり親控除
6.障害者控除
7.医療費控除
8.寄付金控除
9.雑損控除
10.社会保険料控除
11.生命保険料控除
12.地震保険料控除
13.小規模企業共済等掛金控除
今回は、ほとんどの人が利用している、7.医療費控除のお話です。
医療費控除は「医療費が高額になってしまったような場合には、税金負担を軽くしてあげよう」というものです。
健康診断などを行っていることを前提に、ドラッグストアでの薬等を医療費控除対象とするセルフメディケーション税制という新しい税制もできていますので、ご確認ください。
7.医療費控除
医療費控除は身近で、かなり普及している控除の一つと思います。
基本的には、10万円を超えると控除が受けられ、最高で200万円まで所得控除として控除することができます。
要件
(要件1) 納税者が、自分や生計一の配偶者・親族のために支払った医療費であること
「生計一」については、所得控除の基本(1)で説明をしていますのでご参照ください。
(要件2) その年の1月1日~12月31日までの間に支払った医療費であること
実際に支払った年でカウントします。未払いの医療費は含められません。
対象となる医療費
控除の対象となる医療費は、国税庁のHPで詳細が掲載されていますが、読みにくい上、読んでも判断しにくいものも多いと思われます。
そこで、みなさんは、基本的なイメージとして
と覚えておいていただければと思います。
そこで、対象/対象外の違いについて、よく質問されるものを説明していきます。
▪健康診断、予防接種、サプリメント
健康診断等の検査、インフルエンザ等の予防接種や、健康増進目的のサプリメントも基本的には対象外です。
▪対象となる検査やサプリメント
治療のために医者の指示で購入するサプリメントや、検査の結果、病気が発見された場合の検査費用は医療費控除の対象となります。
▪入院関係
また、入院費はすべて対象としてしまいがちですが、実は対象とできないものも多く含まれています。
寝間着等の身の回り品は対象外ですし、本人や家族の都合で個室を希望した場合の差額ベッド代も対象外となります。
ただし、入院中に病院で出される食事は、基本的には対象となります。
▪交通費(通院費)
そして、意外と漏れてしまいがちなのが交通費です。
原則、ガソリン代やタクシー代は認められませんが、電車やバス等の公共交通機関を利用した通院費等は認められます(対象)。
タクシー代に関しては、公共交通機関を利用できず、タクシーを使う必要がある場合には控除の対象となります。
一人で病院に行くことが困難な子供等の付添人の交通費も対象とできます。
▪出産、不妊治療、介護関係
出産時に係る費用や不妊治療費用、介護関係費用も対象になるものが多いです。
医師からおむつ使用証明書を発行してもらえれば、おむつ代も控除対象となります。
介護関係は、請求書や領収書に、医療費控除対象の金額とそうでない費用の金額を区分記載してくれている場合が多いので、書類を確認いただくとともに、サービス提供機関等に確認すると教えてくれます。
▪歯の治療
歯医者での治療費も高額なものが増えてきています。
「一般的」な水準を超える高額治療費は対象外とされていますが、皆さんが判断するには難しい場合も多いでしょう。
国税庁のHPにも金やポーセレンを使用した治療は「一般的」と明記されています(対象)。
矯正でも、子供の成長を阻害しない目的等で行われるものは対象となりますが、容ぼうを美化する目的のものは対象外とされています。
★入るものと入らないものの判断に迷う場合には、医療機関か税務署に遠慮なく確認しましょう。
(参考)控除の対象となる医療費とは?:
国税庁HP No.1122 医療費控除の対象となる医療費 参照
留意点
支払った医療費に対して、保険金や給付金等がある場合には、その金額は医療費から引かなければなりません。
「実際に負担した金額」を控除対象と考えるのが税法の考え方だからです。
例えば、保険会社から入金される入院費給付金や、健康保険などで支給される高額療養費、出産一時金などが該当します。
これらを医療費から差し引くことになります。
なお、差し引くのは「保険金や給付金等の目的となった医療費から」となりますので、これらの給付額がもし目的の医療費を超えたとしても、他の医療費から差し引く必要はありません。
手続き
医療費控除を受けたい場合には、必ず確定申告が必要です。
確定申告に、医療費の対象となる人ごと、病院ごと等に作成した明細書を添付するか、医療保険者が発行する医療費通知を添付する必要があります。
明細書の根拠となる領収書は、求められたらいつでも提示できるように5年間保存が必要です。
また、令和元年分までの申告であれば、明細書を添付せず、領収書を添付又は提示することも可能です。
セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制は、平成29年1月1日以後に、通常の医療費控除との選択で受けることができるようになったものです。
- 納税者が保険組合や国保、自治体が行う健康診査や予防接種を受ける等の健康保持増進・疾病予防を行っていることを要件に、
- 「特定一般用医薬品等購入費」の合計額(保険金等の補てん金額を除く)のうち、1万2千円を超える部分の金額を、
- 8万8千円を限度として、
控除額とすることができる、というものです。
聞きなれず難しい用語ですが、特定一般用医薬品等購入費とは、医師によって処方される医薬品からドラッグストアで購入できるOTC医薬品に転用された医薬品(スイッチOTC医薬品)の購入費をいいます。
写真はイメージ。該当する医薬品は個別に確認ください。
該当するか否かは、領収書等に表示されているほか、対象医薬品に表示されているものも多いので簡単に判断できる仕組みになっています。
厚生省のHPでも対象品目一覧が確認できます。
(参考)セルフメディケーション税制とは?:
No.1129 セルフメディケーション税制 参照
確定申告書に、明細書と健康保持増進・疾病予防を行ったことを証する書類を添付又は提示することで受けることができます。
今回はここまで。
所得控除はボリュームがありますので、5回に分けてお話しています。下記もどうぞ。
1回目:所得控除の基本(1)~基礎控除、配偶者控除、扶養控除とは?
2回目:所得控除の基本(2)~勤労学生控除、寡婦控除、障害者控除とは?
3回目(このページ):所得控除の基本(3)~医療費控除とは?
4回目:所得控除の基本(4)~寄付金控除、雑損控除とは?
5回目:所得控除の基本(5)~社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除とは?
※本稿は基本的な内容を記載していますので、
例外的な対応など気になることがある場合は、最寄りの税務署にお問い合わせください。
アタックス税理士法人 コンサルタント 宮田 香菜子
2003年 茨城大学卒。中小企業から上場企業まで幅広い法人の税務顧問業務を担当。また、組織再編や資産税などの特殊税務業務にも携わる。