令和3年度の税制改正により、電子帳簿保存法という法律に大きな変更が加えられました。
帳簿の作成、保管を義務付けられている納税者すべてに関係する改正となっています。
フリーランスの方で確定申告の時に青色申告書を提出されている個人事業主の方(以下「青色個人事業主の方」という)も、この改正の影響を受けてしまいます。
もちろん、フリーランスの方で、今後、青色申告の優遇を受けることを考えている方も、知っておかなければならない変更でもあります。
そこで今回は、青色個人事業主の方向けに、電子帳簿保存法の中でも、令和4年1月1日から義務付けられる予定の「電子取引」への対応について、注意点も含めてお届けしたいと思います。
1.青色申告の特典
「電子取引」の説明の前に、まず青色申告について簡単に説明しておきます。
青色申告の届出をすると色々な特典を受けることができます。
例えば、事業所得(商いで得られた儲け)から55万円(e-Taxを使えば65万円)をさらに引くことのできる「青色申告特別控除」が代表例です。
他には、配偶者と一緒に商いをしている方であれば、配偶者への給料を経費にすることが可能となる「青色事業専従者給与」などがあげられます。
青色個人事業主には、このような特典が与えられていますが、一方で、適正な帳簿を作り、請求書や領収書(以下「帳簿書類」という)と一緒に保管するという義務も課せられています。
この義務に、これからお話する「電子取引」が関係してきます。
2.帳簿書類の保管
青色個人事業主の方は確定申告に向けて、会計帳簿を作成しています。
また、作成された帳簿書類は一定期間、保管しておかなければなりません。
大半の方が紙ベースで保管していると思います。
しかし、令和4年1月1日からは「電子取引」に該当すると、その取引に関する請求書や領収書を紙ベースで保管していたとしても、保管義務を果たしたことにならない、という法律に改正されます。
つまり、電子取引に該当する請求書や領収書を紙で保管してもルール違反となり、電子データそのものを保管しなさいというルールに変更になったということです。
3.電子取引とは
電子取引は、電子帳簿保存法では「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引」と定められています。
難しく感じると思いますので具体例をあげてみます。
①いわゆるEDI取引
(契約書や帳票等を専用回線やネットを通じて電子的にやり取りするシステム)
②インターネットによる取引
③電子メールで取引情報を授受する取引
④インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じて取引情報を授受する取引など
たとえば、以前は請求書を紙で出力し、郵送でやり取りすることが当たり前でしたが、最近はメールにPDFにした請求書を添付してやり取りしていることが増えてきています。
この場合、請求書を紙ではなく、メール(電子データ)でもらっているので、上記③の事例に当てはまり、電子取引に該当するということになります。
つまり、メールでもらった請求書を紙に出力して保管していたらルール違反となり、電子データ自体を保管しておくことが求められていきます。
4.電子取引の保管要件
保管の要件には細かなものもありますが、ここでは特に重要な2つの点をご紹介いたします。
①検索性の担保
一つ目が、検索機能を確保しなければならないという点です。
PDFなどのデータを「取引年月日」「取引金額」及び「取引先」を検索の条件として検索設定ができるように保管することが求められます。
②真実性の担保
もう一つは、そのPDFなどのデータが改ざんや修正加筆がされていないことを立証していくことが求められます。
具体的には、以下の方法のうちいずれかを実施したうえでデータ保管をしていかなければなりません。
2) タイムスタンプが付いていないデータには、自らがタイムスタンプを付してから保管すること。
3) データに訂正又は削除を行った場合、その訂正又は削除の内容を履歴確認できる条件のもと保管すること。
4) そもそもデータに訂正又は削除を行うことができないシステムを用いて保管すること。
5) データの訂正および削除の防止に関する規定を定めて、その規定通り運用し、その規定自体も保管しておくこと。
5.対応方法
①検索性の担保
上記4の「①検索性の担保」が可能なシステムを導入する方法もありますが、コストも相応にかかってしまいます。
電子取引の量がそれほど多くないということであれば、データフォルダに保管する際に、データのタイトルに「取引年月日」「取引金額」及び「取引先」を入力しておくことにより、ファイル検索機能で検索性を担保していくことも考えられます。
②真実性の担保
上記4の「②真実性の担保」の1)から4)の方法はシステム対応を余儀なくされます。
訂正や削除がされていない元のデータであることを立証していくことが、真実性を担保することになりますので、相応の対応が必要になってしまいます。
コストをかけずに適法にしていく唯一の方法が、5)の規定での対応ということになります。
6.猶予期間の設定
現行の法律では電子取引への対応義務化について、令和4年1月1日以降の取引から電子保存することを求めています。
しかし、法律施行の直前である現時点においても、納税者が改正内容を理解しきれていない状況となってしまっているため、令和3年12月10日公表の令和4年度与党税制改正大綱に2年間の猶予を設定する旨が記載されました。
詳細の法施行は今後の話とはなりますが、猶予期間が定められる方向性となるのは間違いなさそうです。
7.結びに
2年間の猶予期間が設定されることにはなりますが、対応しなければならない内容に変更はありません。
あまり認識していなかったという方もたくさんいらっしゃると思います。猶予期間が設けられたことをチャンスととらえて、ルール違反にならないようにして頂きたいと思います。
アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村松 宏昭
2000年 東洋大学卒。公認会計士・税理士事務所勤務を経て、アタックスに参画。中小企業から上場会社まで幅広い顧客を担当。お客様中心主義の税務サービスを信条とし、経営者に対する財務面からの熱血指導でも定評がある。