令和4年度の税制改正では、上場株式の配当所得について、所得税と住民税の課税方式を統一する決定がなされました。
令和4年度(令和5年3月15日提出期限)の確定申告までは、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することができましたが、この改正により、令和5年度(令和6年3月15日提出期限)の確定申告からは所得税と住民税の課税方式が統一されることになります。
今回は、この所得税と住民税の課税方式の統一について解説します。
1.課税方式の種類
配当所得の課税方式は、①源泉分離課税 ②総合課税 ③申告分離課税の3種類が規定されています。
まず、それぞれの課税方式について簡単に説明します。
上場株式の配当金が支払われる際には、所得税と住民税で合計20%の税率(復興特別所得税を除く)が源泉徴収されています。この源泉徴収のみで課税関係が完了となる方式が源泉分離課税ですので、あえて確定申告する必要はありません。
通常は源泉徴収だけで申告せずに課税関係を終了してしまえば良いのですが、申告した方が有利になる場合があります。
以下の2つは、その有利な選択となる可能性のある課税方式です。
総合課税とは、事業所得、給与所得、一時所得、配当所得などの様々な所得を合算して所得税を計算する方式です。
配当所得は総合課税を選択すると、源泉分離課税では適用することのできない「配当控除」を使うことができます。配当控除とは、配当所得の10%(課税総所得金額が1,000万以下の場合)を所得税から控除することができる制度です。
住民税についていえば、配当所得の2.8%を住民税から控除することができます。
つまり、所得税や住民税を安くすることができるお得な制度といえます。
申告分離課税とは、総合課税とは区別して譲渡所得などの他の所得と合算した上で所得税を計算する方式です。
例えば、上場株式の譲渡損失ある場合、その損失と配当所得を相殺することができます。相殺することにより、配当所得に対して源泉徴収されていた所得税などが還付されます。
上場株式の配当金について総合課税を選択すると配当控除を受けることができますが、上場株式の譲渡損との相殺はできません。
一方、申告分離課税を選択すると譲渡損との相殺をすることができますが、配当控除を適用することはできません。
2.所得税と住民税の課税方式の選択
通常、所得税の課税方式を選択すると、住民税も同じ課税方式が採用されます。
しかし、所得税の課税方式と異なる課税方式を住民税で採用したいといった場合には、住民税の確定申告書を別途作成して提出することが可能です。
この方法により、令和4年度(令和5年3月15日提出期限)の確定申告までは、上場株式の配当所得も所得税と住民税で異なる課税方式を選択することができました。
令和4年度確定申告(令和5年3月15日提出期限)まで
令和4年度確定申告(令和5年3月15日提出期限)までの考え方を、おさらいも兼ね少し説明します。
例えば・・・
- 上場株式の譲渡損があるため所得税は申告分離課税を選択し、所得税を安くしたいといった場合、配当金と譲渡損を相殺した後の金額が残るとき(相殺後も利益がある場合)は住民税の課税標準(税率を乗じる対象となる価額)がその残った金額分だけ増えてしまいます。
住民税の課税標準が増えてしまうと、国民健康保険料があがってしまう可能性があります。そこで住民税は申告不要制度を採用する(源泉分離課税となる)ことにより負担軽減を図ることができます。 - また、配当控除を受けたいと総合課税を選択して所得税を安くする場合も、住民税では不利が生じます。住民税の源泉徴収は5%という税率です。ところが、総合課税を選択すると一律10%が適用されますので、所得税は安くなるが住民税は高くなってしまいます。
そこで所得税は総合課税で、住民税は申告不要制度を選択する(源泉分離課税となる)と有利になります。
このように、所得税と住民税の課税方式をそれぞれで検討してきた人も多いのではないでしょうか?
令和5年度(令和6年3月15日提出期限)以降の確定申告
しかし、冒頭でお伝えしたように、令和5年度からは上場株式の配当所得については、所得税と住民税の課税方式を別々に選択することができなくなります。
今まで所得税と住民税で別々に有利不利を判断してきた人は、来年(令和6年3月15日提出期限)以降注意が必要です。
つまり、令和5年分の所得税確定申告からは、所得税と住民税の合計額を各課税方式ごとに計算、比較し、最適な課税方式を選択することが求められます。
課税方式が統一されるため、手続き的には煩雑さが解消されることになりますが、従前のような負担軽減策が取れなくなる点を再確認頂ければ幸いです。
アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村松 宏昭
2000年 東洋大学卒。公認会計士・税理士事務所勤務を経て、アタックスに参画。中小企業から上場会社まで幅広い顧客を担当。お客様中心主義の税務サービスを信条とし、経営者に対する財務面からの熱血指導でも定評がある。