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未婚のひとり親にも税制優遇が!~ひとり親控除の創設と寡婦・寡夫控除の見直し

投稿日:2020年7月27日 更新日:

未婚のひとり親にも所得控除が認められることになりました。

今回は、新設された「ひとり親控除」と、それに伴う「寡婦・寡夫控除」の見直しについて紹介します。


 

ひとり親控除の創設

従来の「寡婦(夫)控除」は配偶者と離婚・死別した方のみを対象にしていました。
つまり婚姻の事実が適用の前提にあったわけです。

「ひとり親控除」は、この「寡婦(夫)控除」を改正してできた新しい制度です。
(「未婚のひとり親に対する税制上の措置」といいます。)
 

「ひとり親控除」が新設された背景

日本の労働人口が減少するなか、女性・高齢者・外国人など新たな働き手、特に女性の活躍が期待されているところです。

一方、厚生労働省の「平成28年度 全国ひとり親世帯等調査の概要」によると母子世帯が123.2万世帯、父子世帯が18.7万世帯となっています。

このような背景から、母子(父子)家庭(ひとり親)の、婚姻歴の有無による税制上の格差を是正し、所得者の公平な税制支援を行う必要がありました。


 

未婚のひとり親に対する税制上の措置

具体的に「未婚のひとり親に対する税制上の措置」による控除内容は、以下の通りです。

ひとり親(現に婚姻をしていないもの、または、配偶者の生死が明らかでない者)である場合には、ひとり親控除としてその年の総所得金額から35万円の控除をおこなう。

税制上のひとり親の要件

ただし、未婚のひとり親といっても、以下の要件があります。

  1. 生計を一とする一定の子(総所得金額48万円以下)を有すること。
  2. 合計所得金額が500万円(給与所得のみの場合は年収678万円)以下であること。
  3. その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる、次に掲げる者がいない こと。(簡単にいうと、住民票により事実婚と判断される人が居ない、ということです。)
  4. a)その者が住民票に世帯主と記載されている者である場合には、その者と同一の世帯に属する者の住民票に世帯主との続柄が世帯主の未届の夫又は未届の妻である旨その他の世帯主と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる続柄である旨の記載がされた者
    b)その者が住民票に世帯主と記載されている者でない場合には、その者の住民票に世帯主との続柄が世帯主の未届の夫又は未届の妻である旨その他の世帯主と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる続柄である旨の記載がされているときのその世帯主

     

    寡婦(夫)控除の改正もありました

    改正点

    ひとり親控除制度が新設されたことで、一部、「寡婦(夫)控除」の取り扱いが見直されました。

    • 変更点① 所得制限
      所得者ご本人の所得が500万円以下の場合は35万円、500万円超の場合は27万円(寡夫は0円)でしたが、
      改正により500万円超の場合、適用が無くなりました。
    • 変更点② 男女均等
      寡夫の場合、改正前は27万円でしたが、改正後35万円に引き上げられました。
      これは、男性の場合は女性よりも一定程度の収入を得て女性よりも収入が多いことを前提に、控除額を女性よりも低く設定してありましたが、不公平を是正する観点から男女同額に改正されました。

     

    ひとり親控除の新設と改正点をまとめると…

    ここまでの内容を踏まえ、改正の前後で寡婦(夫)控除を比較すると下表のようになります。

    寡婦控除の場合

    寡婦控除の場合の控除額は以下となります。(単位:万円)

    区分 本人所得 改正前 改正後
    扶養親族あり 扶養親族なし 扶養親族あり 扶養親族なし
    子以外 子以外
    死別 500万円以下 35 27 27 35 27 27
    500万円超 27 27 0 0 0 0
    離婚 500万円以下 35 27 0 35 27 0
    500万円超 27 27 0 0 0 0
    未婚 500万円以下 35 0 0
    500万円超 0 0 0

    寡夫控除の場合

    寡夫控除の場合の控除額は以下となります。(単位:万円)

    区分 本人所得 改正前 改正後
    扶養親族あり 扶養親族なし 扶養親族あり 扶養親族なし
    子以外 子以外
    死別 500万円以下 27 0 0 35 0 0
    500万円超 0 0 0 0 0 0
    離婚 500万円以下 27 0 0 35 0 0
    500万円超 0 0 0 0 0 0
    未婚 500万円以下 35 0 0
    500万円超 0 0 0

     

    注意:適用開始時期と年末調整事務年度

    「ひとり親控除」の新設と「寡婦(夫)控除」の改正を踏まえ、毎月の源泉所得税の徴収(天引き)事務が始まるのは令和3年1月以降からになります。

    令和2年分(令和2年4月1日施行)は年末調整事務(勤め先で計算)で計算することになりますから、「ひとり親」制度を受けたい場合は勤務先へ提出した「扶養控除申告書」(昨年末の年末調整の際に提出したもの)の訂正の申請が必要になる場合がありますのでご注意ください。

    ※詳しくは国税局HPご参照 
    ひとり親控除及び寡婦控除に関するFAQ(源泉所得税関係)
     
     

    本記事の執筆者:
    アタックス税理士法人 主席コンサルタント 岡田昌樹
    専門性の高い税務を噛み砕いて判りやすく指導する事に定評があり、幅広い顧客のサポートをしてきた経験から、最近では中小企業が抱える税務以外の課題への相談業務にも軸足をおいて活躍中。

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