個人事業が好調で利益が順調になった際、「会社を設立して会社で運営した方がよいだろうか?」と考える方は多いのではないのでしょうか?
そこで今回は、個人事業者から法人への移行タイミングについて考えてみます。
「法人成り」とは?
個人事業運営から法人事業運営に移行することを一般的には「法人成り」と言います。
では、どのようなタイミングで法人成りするとよいのでしょうか?
タイミングの考え方は様々ですが、今回は「個人に係る所得税」と「法人に係る法人税」との差から、税金面でのメリットを中心に解説したいと思います。
個人に係る所得税
所得税の計算は、簡単に説明すると以下のようになります。
- 収入から費用を差し引き、利益(=所得)を算定します・・・①
- ①から医療費控除や扶養控除など認められている所得控除を控除し、税引前利益を算定します・・・②
- ②に所得税率を乗じて、所得税を計算します。
法人に係る法人税
法人税も簡単に説明すると以下のようになります。
- 収入から費用を差し引き、利益(=所得)を算定します・・・①
- ①に法人税率を乗じて、法人税を計算します。
「個人事業」と「法人」の場合の税額を計算してみよう
さて、所得税、法人税とも利益に対して税率を乗じるのですが、両者ともその税率は利益により異なります。
①個人事業の場合:所得税の税率(住民税も含みます)
所得税は、所得金額によって税率は次の速算表のようになっています。
所得税 =(課税される所得金額 × 税率)-控除額
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 15% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 20% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 30% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 33% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 43% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 50% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 55% | 4,796,000円 |
※国税庁出典 筆者が一部加筆修正 |
◆所得税の計算例:個人の利益が1,000万円の場合
1,000万円×43%-153.6万円=276.4万円
②法人の場合:法人税の税率(地方税も含みます)
法人税は、利益のうち800万円までと、800万円を超えた部分とでは税率が変わります。
利益 | 税率 |
---|---|
~800万円 | 約25% |
800万円~ | 約35% |
◆法人税の計算例:法人の利益が1,000万円の場合
800万円×25%+200万円(1,000万円-800万円)×35%=270万円 となります。
税額の比較結果:利益800万円でほぼ同程度
前項での計算の結果、利益が1,000万円のケースでは、法人税が270万円に対して、所得税は276.4万円で、法人税が所得税より6.4万円少なく計算されました。
それでは法人税と所得税が同じくらいとなる利益はどれぐらいでしょうか?
計算するとおおよそ利益が800万円で同程度となります。
所得税: 800万円×33%-63.6万円=200.4万円
法人成りの税金以外のコスト
では、利益が800万円を超えたら法人成りした方がよいかというと、実はそう簡単でもありません。
法人成りを検討する場合、下記のコストも認識する必要があります。
(ロ)法人ランニングコスト(法人住民税の均等割、税理士報酬等)
(ハ)社会保険
不動産の所有権移転登記(いわゆる名義変更)を行う場合は
(ニ)不動産取得税、登録免許税、譲渡益に対する譲渡所得税
法人成りのタイミング
以上から、法人成りをするかどうかのタイミングについては、
- 法人成りの税メリットを試算する
- 法人成りのコストを試算する
- 法人成りのコストが税メリット何年分で吸収できるかを検討する
などを考慮して判断する必要があると考えられます。
最後に
今回は主な税メリットを中心に法人成りの検討を行いましたが、法人成りのメリットはこれ以外にもあります。
信用度アップ
法人になることにより、信用度がアップし、従業員の採用がしやすくなる、銀行から借入しやすくなる、新規取引先が増える等考えられます。
不動産登記
個人で不動産を所有している場合は、相続が発生するたび不動産登記を行う必要がありますが、法人所有とすれば、売却しない限り不動産登記をする必要がありません。
節税
法人成りすることにより、法人から役員報酬を受け取ることになります。
そのため、個人側の所得は、事業所得・不動産所得等から給与所得に変わります。
給与所得には「給与所得控除」という収入金額に応じた一定額を控除する制度がありますので、その分節税になるわけです。
◆節税額=給与所得控除額×所得税率 (給与所得控除額は下表参照)
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 | |
---|---|---|
1,625,000円まで | 550,000円 | |
1,625,001円から1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 | |
1,800,001円から3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 | |
3,600,001円から6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 | |
6,600,001円から8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 | |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) | |
※国税庁出典 |
また将来会社を退職する際は退職金を受け取ることができます。現状の税制では退職金に係る税金は優遇されているため、節税に繋がります。
このように法人成りする論点は多岐に渡りますが、個人事業が順調だと感じている際は、どこかのタイミングで法人成りを検討してみてはいかがでしょうか。
アタックス税理士法人 税理士 武田太一
2000年 名古屋市立大学卒。税務顧問、財産顧問業務を中心に現在約60社のクライアントを担当。税金だけでなく経営の視点からも問題解決を図っている。