[2024年7月22日更新] ※インボイスについて加筆しました
近年では働き方が多様化する中、サラリーマンの方も副業を始める方が増えているようで、国税庁の確定申告サイトでも「スマホで確定申告(副業編)」という副業されている方向けのページも作成されていました。
こうしたサイトでは所得税の計算をサポートしてくれる内容になっていますが、「消費税」というものがどういう仕組みになっているのか、ご存じでしょうか?
わたしたちは日常的に消費税を商品の代金と一緒に「販売店に支払う」ため、実際にその消費税がどのように「納税される」のか、サラリーマンの方には馴染みがないのではないでしょうか?
さらに、2023年10月よりインボイス制度が導入されましたが、副業をされるサラリーマンの方にどのような影響があるのか気になっている方も多いと思います。
今回は、そのような副業がある場合に、消費税を納税しなければならないのか?そして、インボイス制度の影響はあるのか?を整理してみたいと思います。
お店に支払った消費税が「納税される」仕組み
消費税は誰が納めているのでしょうか?
答えは、販売店が消費者から預かり納めているのです。
販売店は商品を販売した際、代金と共に消費税を預かります。
また一方で、販売する商品を仕入れる際、その仕入先に消費税を支払っているため、実際には「預かった消費税」と「支払った消費税」の差額を販売店は納めています。
このように、消費税は負担する人(消費者)と納める人(販売店)が異なるため、「間接税」と言われています。
消費税がかかる「3つの原則」
そもそも消費税がかかるのかどうかを判定するために、次の「3つの原則」があります。
この原則に該当しない場合は消費税がかからないため、消費税を納める必要もありません。
- 国内(日本)において行われる取引であること
- 事業として対価を得て行われるものであること
- 資産の譲渡・貸付、役務の提供であること
このなかで、副業をしている場合に消費税を納税しなければならないのかどうか、を考える際に重要なのは 2 で、その副業を「事業として対価を得て行っているか」どうかになります。
対価とは見返りのことで、通常は商品の代金として受け取る金銭が対価となります。
「事業として」とは、何度も継続して商品売買などの取引を行なっていることを言います。
例えばメルカリなどで自宅にある服などを販売したり、自家用車を売ったりした場合には、この原則に当てはめてみると、生活用品を売るという行為は「事業として」行っているわけではありませんので、消費税はかからないこととなります。
一方で、利益を得る目的で継続して商品を販売していれば、それは消費税がかかる対象になる、と言えます。
3つの原則に当てはまっても「非課税」となるもの
消費税がかかるかどうかは上記の3つの原則に当てはまるかどうかで判定することになりますが、例外があります。
それが、「非課税取引」と言われるものです。
「非課税取引」とは、消費税をかけるのが相応しくなかったり、生活への影響への配慮であったりなどの理由で、特別に消費税をかけないようにしている取引です。
非課税取引になるものとして全部で17項目ありますが、そのなかでも副業に関連しそうなものとしては、「住宅の貸付」や「株式の売買」があります。
(17項目については国税庁HPのこちらのページをご覧ください。)
例えば、サラリーマンAさんが所有している不動産(マンションやアパートなど)を人が居住する目的で賃貸している場合、その賃料は非課税となり、Aさんは消費税を納めなくても良い、ということになります。
また、有価証券の譲渡も非課税とされているため、株式の売買にも消費税はかかりません。
ただし、賃貸不動産が事務所や店舗として利用されている場合は、その賃料には消費税がかかることになるため注意が必要です。
消費税を納税する義務が「免除」される場合
副業が「事業として」行われていて、非課税取引にも該当しない場合は、預かった消費税と支払った消費税の差額を納税しなければいけない立場となります。
個人事業者の場合は1月1日から12月31日までが1つの計算期間となるため、この期間中の預かった消費税と支払った消費税を集計し申告書を作成して、申告と納税の手続きをしなければなりません。
これはなかなか大変な作業であり、特に副業として事業を行っているサラリーマンの方にはかなりの負担になってしまいます。
そこで、消費税には「納税義務の免除の特例」という制度が設けられています。
これは小規模な事業者の事務手間に配慮し、消費税の申告や納税の手続きをしなくても良いですよ、という制度です。
この特例の要件は、2年前に遡って判定することになります。
今年は2024年なので、2年前である2022年に遡り、2022年における売上高が1000万円以下であれば、納税義務の免除の特例が適用され、2024年の消費税申告は免除されることになります。
ここでのポイントは次のとおりです。
- 売上高とは、「消費税がかかる取引」の売上高となります。
つまり、消費税の3つの原則に該当する取引で、非課税取引に該当しない取引が対象になります。これを「課税売上高」といいます。 - 給料には消費税はかからないため、あくまでも事業としての売上高だけで判定します。(給料は労働の対価であり、事業として得た対価ではない。)
- 利益額ではなく、売上高が1000万円あるかどうかで判定します。
(注)ただし、前年の上期(2023年1月から6月)の売上高が1000万円を超えてしまうような場合などは、この特例が適用できない場合があります。
副業でも消費税を納税しなければならない場合は?
ここまでのことを整理すると、
「日本で事業をしていて」
「その内容が非課税取引に該当しないもので」
「2年前の課税売上高が1000万円を超えている」場合には、
その年の確定申告の際に、消費税の申告と納税をしなければならない、ということになります。
売上高が1000万円を超えるとなると、副業としてはかなり大規模な事業になるかと思います。
そこまでの規模になると消費税の申告や納税の必要が出てくるため注意が必要ですが、逆にいえば、そこまでの規模でなければ消費税の申告や納税をする必要はない、と言えます。
副業でもインボイスを発行しなければならないのか?
インボイス制度は2023年10月より施行されました。正式名称は「適格請求書等保存方式」といいます。
インボイス制度が施行されてからは消費税を納める義務がある事業者は基本的には「適格請求書(インボイス)発行事業者」に登録してインボイスと言われる請求書や領収書などを発行しています。
インボイス制度 個人事業主やフリーランス、副業にどう関係する?
インボイスは記載要件が決まっており、今までの領収書などとの大きな違いは、それぞれの適格請求書発行事業者に割り振られた登録番号(”T”を頭文字にした13桁の数字)が記載されています。
コンビニの領収書にも登録番号が付されており、皆さんも無意識にインボイスを受け取っているのではないでしょうか。
それでは、消費税の申告や納税をする必要のない売上規模の副業を行うサラリーマンは「適格請求書発行事業者」に登録してインボイスを発行する必要があるのでしょうか。
インボイス制度は消費税の申告や納税を適正に行うための制度であり、消費税を納める必要のない規模の副業を行うほとんどのサラリーマンは「適格請求書発行事業者」の登録は必要ありません。
特に、副業の取引先が消費税を納める必要のない事業者や一般消費者の場合は、相手方においてもインボイス制度の影響がないため心配ありません。
ただし、副業の取引先が消費税を納める義務がある事業者の場合は、相手方からインボイスの発行を求められる可能性があります。
その場合は、消費税を納める必要のない事業者も「適格請求書発行事業者」の登録をすることによりインボイスを発行することができるようになります。
しかし、インボイスを発行することができる事業者になると消費税を納める義務が生じてしまいます。
そのため、インボイスを発行することによる消費税の申告や納税などの事務負担等の増加と、インボイスを発行しないことによる取引先との取引減少リスクなどを総合的に勘案して判断する必要がありますので、詳しくはお近くの税理士にご相談ください。
執筆:アタックス税理士法人 平野雄大
監修:アタックス税理士法人 税理士 有賀雄一