原則は確定申告!?
突然ですが、サラリーマンの皆さん、
所得税は原則、確定申告が必要だということをご存じですか?
所得税は、その年の1月1日から12月31日までの間に得た全ての所得を、翌年の確定申告によって税務署へ申告し、納税する仕組みとなっています。
すなわち、納税者には、自主的に所得金額や税額を正しく計算し、所得税について申告と納税をする義務があるのです。
これを「申告納税制度」といいます。
国税(国の税金)のほとんどに「申告納税制度」が採用されています。
皆さんが毎月会社からもらう給料も所得税の対象ですので、本来は確定申告が必要です。
確定申告をしなくてもいいのか?
所得税は原則、確定申告が必要だと認識いただいたところで、皆さんに質問です。
「皆さんは毎年確定申告をしていますか? 」
恐らくほとんどのサラリーマンが確定申告をしたことが無いと思います。
となると、多くの人が申告義務を怠っていることになるのでしょうか?
いいえ、ご安心ください。
実は、あることをすると所得税の確定申告が不要になります。
それが「年末調整」です。
なぜ確定申告が不要になるのかというと、
「年末調整」をしたサラリーマンは、原則、確定申告をする必要が無い、と所得税法で規定されているからです。
ただし、「年末調整」をしていても、
給料以外に所得がある人は確定申告をしなければならないケースがあるので注意が必要です。
それでは、なぜ「年末調整」をすれば、原則、確定申告が不要になるのでしょうか。
そもそも「年末調整」とは何なのか?
順を追って説明していきます。
「年末調整」とは?
「年末調整」とは、「所得税を精算する手続き」のことです。
これだけで分かる人は少ないと思います。
そこで「年末調整」の説明をする前に、「源泉徴収」の説明をしておきます。
「源泉徴収」とは?
会社は、毎回の給与の支払い時に一定の所得税を「源泉徴収」して納付しています。
いわゆる「天引き」と呼ばれるものです。
皆さんの給与明細の控除項目に「所得税」とあるはずです。
それが「源泉徴収」された所得税です。
要するに、皆さんは所得税を毎月支払っているのです。
ただ、毎月「源泉徴収」される所得税はあくまで概算です。
なぜかというと、所得税の計算は、前述の通り、1月1日から12月31日の1年間の所得で計算すべきものだからです。
つまり、1年間の給与総額が確定する年末にならないと、その年に納めるべき所得税を正しく計算することが出来ません。
「年末調整」では差額が精算される
そこで、会社は、概算で源泉徴収した所得税額の合計と、年末に正しく計算した所得税額との過不足額を計算し、その差額を追加徴収または還付し、精算します。
この精算の手続を「年末調整」と呼んでいます。
①源泉徴収税額 = 1年間の源泉徴収税額の合計(概算)
②年調年税額 = 年末に正しく計算した所得税額
③差引超過額または不足額(①-②)= 精算する金額
(プラスの場合は還付、マイナスの場合は徴収)
要するに、本来は皆さん自身が所得税の計算をして確定申告をしなければならないのですが、それを会社が代わりに行ってくれているのです。
皆さんが確定申告をしなくても義務違反にならないのはこのためです。
会社は社員の所得税をどのように計算している?
これらのことを知ると、会社に感謝の気持ちが沸いてきたのではないでしょうか?
しかし、会社が正しい税金計算をするには、計算の基礎情報が必要となります。
それでは、会社はどのようにして皆さんの代わりに所得税を計算しているのでしょうか?
毎年11月頃になると「扶養控除等(異動)申告書」などの「○○申告書」という書類が会社から皆さんに配られていませんか?
ちなみに、2020年からは「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」という複雑怪奇な書類名になっています。
そうです!会社は皆さんから提出されたこれらの各種申告書の情報を元に、所得税の計算を行っているのです。
逆の言い方をすれば、「扶養控除等(異動)申告書」などの申告書を会社に提出しなければ正しい税金計算が出来ませんので、「年末調整」をしてもらえなくなってしまうのです。
そうなると、自分で確定申告をしなければなりません。
「年末調整」が自分の税金にどう影響する?
また、「年末調整」の際、各種申告書を会社に提出することで、所得税を少なくできる制度の適用も受けています。
本来であれば、これも確定申告で各自が申告すべきことなのですが、会社が代わりに行ってくれているというわけです。
いわゆる「所得控除」や「税額控除」と言われるものです。
- 所得控除:税額を計算する前の「所得」から差し引けるもの
- 税額控除:算出された「所得税」額から差し引けるもの
「年末調整」により適用を受けることができる制度
「年末調整」により適用を受けることができる制度は以下の通りです。
なお、当HPに記事があるものについては、リンクを掲載しておりますので、ご参照ください。
控除の区分 | 控除の種類 | 提出する申告書 | 参考記事 |
---|---|---|---|
所得控除 | 基礎控除 | 基礎控除申告書 | 所得控除の基本(1)~基礎控除、配偶者控除、扶養控除とは? |
扶養控除 | 扶養控除等申告書 | 所得控除の基本(1)~基礎控除、配偶者控除、扶養控除とは? | |
配偶者控除 | 配偶者控除等申告書 | 所得控除の基本(1)~基礎控除、配偶者控除、扶養控除とは? | |
配偶者特別控除 | 配偶者控除等申告書 | 所得控除の基本(1)~基礎控除、配偶者控除、扶養控除とは? | |
勤労学生控除 | 扶養控除等申告書 | 所得控除の基本(2)~勤労学生控除、寡婦控除、障害者控除とは? | |
寡婦控除 | 扶養控除等申告書 | 所得控除の基本(2)~勤労学生控除、寡婦控除、障害者控除とは? | |
ひとり親控除 | 扶養控除等申告書 | 「寡婦控除」が「ひとり親控除」に生まれ変わります | |
障害者控除 | 扶養控除等申告書 | 所得控除の基本(2)~勤労学生控除、寡婦控除、障害者控除とは? | |
社会保険料控除 | 保険料控除申告書 | 所得控除の基本(5)~社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除とは? | |
生命保険料控除 | 保険料控除申告書 | 所得控除の基本(5)~社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除とは? | |
地震保険料控除 | 保険料控除申告書 | 所得控除の基本(5)~社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除とは? | |
小規模共済等掛金控除 | 保険料控除申告書 | 所得控除の基本(5)~社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除とは? | |
所得金額調整控除 | 所得金額調整控除 | ― | |
税額控除 | 住宅借入金等特別控除 | 住宅借入金等特別控除申告書 | ― |
「年末調整」では適用を受けることができない制度
ただし、確定申告に対して「年末調整」は簡便的な方法という位置づけのため、「年末調整」では適用を受けることができない制度があります。
この制度の適用を受けるには、確定申告が必要となります。
該当する人は確定申告をしないともったいないですのでご確認ください。
税金が戻ってくるかもしれません。詳細は、以下の通りです。
控除の区分 | 控除の種類 | 内容 | 参考記事 |
---|---|---|---|
給与所得から控除 | 特定支出控除 | 通勤費や転居費などを支払った場合 | 特定支出控除~サラリーマンも税金が戻ってくる場合がありますよ |
所得控除 | 医療費控除 | 医療費を支払った場合 | 所得控除の基本(3)~医療費控除とは? |
所得控除 | 寄附金控除 | 寄付をした場合 | 所得控除の基本(4)~寄付金控除、雑損控除とは? |
税額控除 | 住宅借入金等特別控除(1年目の場合) | 住宅ローンを組んだ場合 | ― |
まとめ:確定申告と年末調整の違い
確定申告と年末調整の違いをまとめると、以下の通りです。
確定申告 | 年末調整 | |
---|---|---|
税金の計算・納税 | 個人 | 会社 |
時期 | 翌年3月15日まで | 年末 |
申告書の提出先 | 税務署 | 会社 |
所得控除・税額控除 | すべて対応している | 一部対応していない |
おわりに
皆さん、確定申告と年末調整の違いをお分かりいただけたでしょうか?
ご説明した通り、所得税というものは、本来は、個人である皆さんが税金を計算して、納める義務があります。
しかし、「源泉徴収」と「年末調整」という制度で、会社が代わりに税金を計算して、納めてくれています。
皆さんにとっては、確定申告の手間が省ける制度ですが、専門家の間では、国民の税金に対する意識が薄くなっている原因の一つと言われています。(なお、アメリカでは、年末調整制度は採用されていません。)
また、確定申告でしか受けることができない制度もあります。
年末調整していても確定申告はできるので、少しでも興味がある方はご自身で確定申告にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
執筆:アタックス税理士法人 税理士 安井 雅人
監修:アタックス税理士法人 社員 税理士 海野 大