所得控除の解説(5回シリーズ)も最後の回となりました。
所得控除の基本(4)に続き、
以下の所得控除のうち、
2.配偶者控除(配偶者特別控除を含む)
3.扶養控除
4.勤労学生控除
5.寡婦控除・ひとり親控除
6.障害者控除
7.医療費控除
8.寄付金控除
9.雑損控除
10.社会保険料控除
11.生命保険料控除
12.地震保険料控除
13.小規模企業共済等掛金控除
今回は、ほとんどの人に該当する社会保険などの保険料控除のお話です。
「10.社会保険料控除」「11.生命保険料控除」「12.地震保険料控除」「13.小規模企業共済等掛金控除」の4項目をご説明します。
なお、この回を読むに当たって、「生計一」「扶養親族」等の概念がよく出てきます。
所得控除の基本(1)~基礎控除、配偶者控除、扶養控除とは?で説明していますので、是非、そちらを見ていただいた上で、こちらを読んでいただければと思います。
10.社会保険料控除
控除対象となる社会保険料とは、健康保険、国民年金、厚生年金保険、介護保険料、労働保険料(労災保険・雇用保険)、後期高齢者医療制度の保険料などですが、詳しくは、以下の国税庁HPでご確認ください。
(参考)控除の対象となる社会保険料
国税庁HP No.1130 社会保険料控除「2 社会保険料の範囲」
「社会保険料」控除できる金額
控除できる金額は、その年に、実際に支払った金額、給与や年金から差し引かれた金額の「全額」です。
自分の社会保険料のほか、納税者が、生計一の配偶者・親族の負担すべき社会保険料を支払った場合には、その支払った金額についても所得控除を受けることができます。
「社会保険料」控除の申告の仕方
▪会社にお勤めの方
会社にお勤めの方であれば、毎月のお給料から差し引かれている健康保険や厚生年金、労働保険料等が社会保険料に該当しますが、これらは会社が行う年末調整で控除されます。
もしお給料からの天引き以外で支払っているものがあれば、上記の「控除の対象となる社会保険料」に該当するか確認してください。
該当するものがあれば、年末調整の際の「給与所得者の保険料控除申告書」の「社会保険料控除」の欄に記入し、各種機関から発行される証明書を添付又は提示して、会社で年末調整してもらいます。
▪確定申告をする方
確定申告をされている方は、確定申告書の「社会保険料控除」欄に金額を記載し、各種機関から発行される証明書を添付又は提示して申告します。
「社会保険料」控除の留意点
▪実際に支払った年の控除となる
社会保険料は、実際に支払った年の所得に対する控除対象となります。
過去の年分の保険料をまとめて支払った場合にも、実際に支払った年で控除を受けることになります。
▪配偶者・親族として控除できるのは?
配偶者・親族の負担すべき社会保険料を支払った場合、控除の対象とできるのは、配偶者・親族が生計一の場合です。
別居し、生計が別となった後に支払ったものは対象外となりますので、ご留意ください。
ただし、仕送りをしている場合等には生計一とみなされ、控除の対象となります。
また、間違えやすいものとして、扶養している配偶者(妻)の公的年金から特別徴収(天引き)されている介護保険料等は、配偶者自身が支払ったとみなされるため、配偶者自身の社会保険料控除対象になっても、納税者(夫)から控除することはできません。
11.生命保険料控除
納税者は、保険金受取人が納税者自身、配偶者、親族である、「生命保険料」「介護保険料」「個人年金保険料」を支払った場合には、限度額が各4万円ずつで最高12万円の所得控除を受けることができます。
年末付近で、証明書等が保険会社から送られてきて、会社に提出したり、確定申告で申告している人も多いと思います。
基本的には、年末調整で会社に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」の「生命保険料控除」欄に、確定申告する方は確定申告書の「生命保険料控除」欄に、保険会社より送られてくる「控除証明書」通りに記載すれば問題ありませんが、次の留意点に気をつけてください。
「生命保険料」控除の留意点
▪「新」「旧」の2区分があることに注意
契約日により「新」と「旧」という2区分に分かれているため、きちんと区分を確認すること。
▪記入するのは「申告額」
証明書には「証明額」と「申告額」の2種の金額が記載されていることがありますが、「申告額」を記入すること。
2種の金額が一致しないことがありますが、それは、「証明額」は証明書発行までに支払った確定額ですが、「申告額」は年末までに支払う予定の保険料額も含まれているためです。
▪「生命保険料控除」のなかの「控除区分」に注意
「生命保険料控除」は、記入欄が「生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」の3つの控除区分に分かれています。
したがって、この控除区分を間違えないよう記載をしてください。
正しい「申告額」を正しい「控除区分」欄に記入すれば、会社で年末調整をしてもらう方や、e-TAXを利用して確定申告される方は、これで控除額が自動計算されます。
ただし、ご自身で控除額まで計算して確定申告をするような場合には、これらの控除区分ごとに控除額の計算の仕方が異なりますので、その点にも留意してください。
▪証明書は申告年のものを!
当然ですが、申告する年に支払った保険料が対象ですので、証明書は申告年のものである必要があります。
時々、前年のものを提出している方がいらっしゃいますので、ご留意ください。
▪所得控除できるのは、保険料を支払っている人
また、契約者が配偶者や親族であっても、納税者が保険料を支払っていれば、納税者の所得控除となります。
▪受取人が納税者、配偶者、親族か?
控除対象となる生命保険料は、受取人が納税者、配偶者、親族と限定されています。
したがって、妻が受取人の保険料を、もし離婚後に支払ったとしてもそれは控除対象にはなりません。
すみやかに受取人を子供へと変更手続きをすることをお勧めします。
控除できる金額
生命保険料控除は、社会保険料控除と違い、全額を控除できるわけではありません。
保険の種類や支払った金額により、控除額の計算式と上限金額が定められています。
控除額を確認したい方は、以下の国税庁HPをご確認ください。
(参考)生命保険料の控除額は?
国税庁HP No.1140 生命保険料控除「2 生命保険料控除額の金額」
12.地震保険料控除
納税者が地震保険料を支払った場合には、最高5万円の控除を受けることができます。
少し前の改正で、平成19年分から損害保険料控除が廃止されましたが、経過措置として、一定要件を満たす損害保険料については、控除の対象とすることができます。
一つの損害保険料契約で、控除対象となる地震保険料と損害保険料の両方を支払っている場合には、いずれか一方の控除を納税者が選択することになります。
生命保険料控除と同様、こちらも保険の種類や支払った金額によって控除額の計算式が定められています。
(参考)地震保険料控除額の控除額は?
国税庁HP No.1145 地震保険料控除「3 地震保険料控除の金額」
- 年末調整を受ける方は、「給与所得者の保険料控除申告書」の「地震保険料控除」欄に記載の上、証明書を添付又は提示してください。
- 確定申告をする方は、確定申告書の「地震保険料控除」の欄に記載の上、証明書を添付又は提示してください。
13.小規模企業共済等掛金控除
納税者が、確定拠出年金や小規模企業共済の掛金、心身障害者扶養共済制度の掛金等を支払った場合には、その支払った「全額」の所得控除が受けられます。
限度額がなく、掛金全額が所得控除の対象金額となるという意味で、他の保険料よりもメリットを大きく感じる控除ですね。
- 年末調整を受ける方は、「給与所得者の保険料控除申告書」の「小規模企業共済等掛金控除」欄に掛金金額を記載するとともに証明書を添付又は提示してください。
- 確定申告をされる方は、確定申告書の「小規模企業共済等掛金控除」欄に記載の上、証明書を添付又は提示してください。
みなさんは必要な所得控除は、受けられていたでしょうか。
「一つでも漏れていてはもったいない!」
是非、全5回の記事でチェックしてみてください。
1回目:所得控除の基本(1)~基礎控除、配偶者控除、扶養控除とは?
2回目:所得控除の基本(2)~勤労学生控除、寡婦控除、障害者控除とは?
3回目:所得控除の基本(3)~医療費控除とは?
4回目:所得控除の基本(4)~寄付金控除、雑損控除とは?
5回目(このページ):所得控除の基本(5)~社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除とは?
※本稿は基本的な内容を記載していますので、
例外的な対応など気になることがある場合は、最寄りの税務署にお問い合わせください。
アタックス税理士法人 コンサルタント 宮田 香菜子
2003年 茨城大学卒。中小企業から上場企業まで幅広い法人の税務顧問業務を担当。また、組織再編や資産税などの特殊税務業務にも携わる。